新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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❷ 神経学的評価および精神発達評価❷ 飲酒・ 腎機能検査:採血,尿生化学検査1か月ごと,レノグラム年1回2 高チロシン血症2型,3型❶ 一般的評価と栄養学的評価栄養制限により体重増加不良をきたさないように注意する.①身長・体重測定②血液検査・ 検査間隔:初期は月1回・ 血漿アミノ酸分析,末■血液像,一般生化学検査,尿中有機酸分析 (必要に応じて行う)・ 評価項目:4■ヒドロキシフェニルピルビン酸,4■ヒドロキシフェニル乳酸および4■ヒドロキ 高チロシン血症1型では,内科的治療の奏効や移植施行により今後は成人症例が増加する可能性がある.❶ 食事療法と内服療法の継続肝移植症例以外では継続が必要となる.代謝機能に影響を与えるため,一般的には推奨されない.❸ 運動過度の運動は体調悪化の誘因となりやすく,無理のない範囲にとどめる必要がある.❹ 妊娠・出産高チロシン血症1型の妊婦におけるNTBCの安全性は確立されていない.これまで,NTBC内服中の3症例で出産した報告がある.いずれの症例の児も新生児期には異常を認めなかった.罹患した胎児では羊水中にサクシニルアセトンが検出される.臍帯血ではサクシニルアセトンとAFPの上昇を認める.胎児と母親ともに高チロシン血症1型であった場合,NTBCは胎盤を通過し胎児の病状の進行も抑えることができると考えられる.シフェニル酢酸の排泄増加神経学的評価は重要であるが,4歳頃までは予後予測が困難である.発達評価としては初回の知能検査を就学前に行い,以後は症状の進行に応じて定期的に行う.❸ その他必要に応じて,下記の検査を行う.①2型・眼検査:年1回程度・皮膚検査:年1回程度②3型・眼検査:年1回程度・脳波検査:年1回程度・脳MRI検査:年1回程度また,肝移植を受けた高チロシン血症1型の症例で,問題なく妊娠・出産を行えた症例も報告されている21). 高チロシン血症2型においても,妊娠・出産の症例は報告されている.治療されていない高チロシン血症2型の妊娠では,重度の高チロシン血症のために小頭症,けいれん,精神遅滞のような神経学的異常を伴う胎児に至ることが報告されている44).軽度の高チロシン血症の症例では,治療されていなくても正常妊娠・出産の成功例もある.また,食事制限により,血漿チロシン値100〜200μmol/Lと血漿フェニルアラニン値200〜400μmol/Lにコントロールすることで,胎児・母親ともに正常分娩の結果を得たことも報告されている45). 高チロシン血症3型についての妊娠・出産症例の報告は今のところない.❺ 医療費の問題小児慢性特定疾病,指定難病(241,242,243)であり,医療補助対象疾患である.mini column110ニチノシン(NTBC)は,チロシンの分解に必要な4⊖ヒドロキシピルビン酸二酸素添加酵素(HPD)の阻害薬である.本剤を投与することにより,高チロシン血症1型の肝腎障害の原因となるフマリルアセト酢酸の産生が抑制され治療効果を示す.しかしながら,チロシンの体内濃度を下げることはできないので,チロシン・フェニルアラニンの摂取制限を併用する必要がある.おもな副作用として血漿中チロシン濃度の上昇による眼障害(角膜混濁,角膜症⊘角膜炎,眼痛,結膜炎など)を認めることがあるため,本剤による治療開始前には,眼の細隙灯顕微鏡検査を行うことが望ましい.また,顆粒球減少症,白血球減少症,血小板減少症を認めることがあるため,定期的な検査を行う必要がある.長期予後については,まだ症例の蓄積は少ないが,NTBC投与により血液中のチロシン濃度が上昇するため,原疾患と同様の神経障害(運動機能障害および言語障害)が認められるとの報告がある.CQ2:高チロシン血症2型と3型に対する治療薬は存在しないのか? 高チロシン血症2型と3型の治療法は,特殊ミルクを使用した,チロシン・フェニルアラニンの制限を行うことであり,現時点では,有効な治療薬は存在しない.高チロシン血症のラットモデルでは,酸化ストレスが誘導され,さらにプロ炎症性サイトカイン(TNF⊖α,IL⊖1β,IL⊖6およびIL⊖10)によって誘導される炎症細胞が脳に動員されることが証明されている.2020年,ω⊖3脂肪酸の投与によって,高チロシン血症モデルラットにおける脳でのプロ炎症性サイトカイン(TNF⊖α,IL⊖1β,IL⊖6およびIL⊖10)値を低下させることを証明した報告40)が出てきた.ω⊖3脂肪酸の有効性については,今後さらなる検討が必要であるが,ω⊖3脂肪酸は,治療薬の一つとして期待がもてるかもしれない.CQ3:高チロシン血症1型において,肝移植後にNTBCは必要か? 肝移植後にNTBCの使用が必要かどうかについては,明確な結論が得られていない.肝移植後に尿中サクシニルアセトン排泄が持続し,腎不全が進行した症例の報告がある.また,尿中サクシニルアセトン排泄が持続したが,少量のNTBCを継続することで腎障害を防いだ報告もある.2 高チロシン血症(1型,2型,3型)11ニチノシン(NTBC;オーファディン®)について21,31■34)クリニカルクエスチョンCQCQ1:高値の血中チロシン値が神経症状を悪化させるのか? 血漿チロシン値は,200~400μmol⊘L(200~500μmol⊘Lとの報告もある)を目標値としてコントロールすることは重要である.この血中チロシン濃度をコントロールすることは,高チロシン血症2型の角膜や皮膚症状は改善するだけでなく,脳の障害を軽度にとどめるために必要である.ラットの脳の実験では,高チロシン血症は,ミトコンドリアの呼吸鎖の機能低下,TCAサイクルの機能低下,クレアチンキナーゼやピルビン酸キナーゼの活性低下,酸化ストレスなどを引き起こし,脳の機能(エネルギー産生)を低下させることが報告されている35⊖38).また,高チロシン血症3型患者における好中球からの過剰なNO産生が,神経へダメージを与えているとの報告もあり39),高チロシン血症と関係している種々の機序によって,高度な血中チロシン高値は,脳や神経へダメージを与えることが示唆されている. また,新生児スクリーニングで見つかった高チロシン血症3型の症例は,新生児スクリーニングで診断されなかった高チロシン血症3型の症例に比べて,精神神経学的予後がよく,知的障害が軽度であることが多い.血中チロシン値の管理が,精神神経学的予後に大きな影響は与えると考えられるが,血中チロシン値の管理が良好であっても神経学的評価は個々の症例によって異なる.成人期の課題

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