新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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図4■2〔Friedman J, et al.:Sepiapterin reductase deficiency:a treatable mimic of cerebral palsy. Ann Neurol 2012;71:520⊖530を基に作成〕 セピアプテリン還元酵素(SR)欠損症の遺伝子の異常れたときに,異常が発見された.この酵素の欠損症は高フェニルアラニン血症を伴わないため,新生児マススクリーニング(NBS)では発見できなかった.2005年,Nevilleらによるマルタ島の家系7症例の検索から病像が明らかにされた2). SR欠損症は3種の芳香族アミノ酸水酸化酵素の補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の生合成にかかわるSRをコードする遺伝子の異常により,BH4の欠乏をきたす常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式の先天代謝異常症である3).肝臓ではSR以外の還元酵素の働きでBH4が合成されるため,高フェニルアラニン血症はきたさないが,脳ではSR以外の還元酵素の働きが弱く,必要なBH4は合成されないため,カテコールアミンおよびセロトニンの合成障害が引き起こされる.その結果,BH4欠損症と同様の中枢神経症状を発症するが,高フェニルアラニン血症をきたさないため,NBSでは発見できず,診断と治療が遅れることが問題となる4).1 代謝経路 SRはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(還元型;NADPH)の存在下に6■ピルボイルテトラヒドロプテリン(PTP)からBH4を合成する(図4■1)5).ヒトSRは,261個のアミノより構成され推定分子量は約56 kDaの均一なサブユニットの2量体構造をとる.ヒトのSR遺伝子(■■■)は,2番染色体(2p14■p12)に位置し,3つのエクソンより構成されるが,遺伝子変異の多くはエクソン2に位置している6)(図4■2)7). 培養皮膚線維芽細胞の分析により,SR活性の低下が明らかにされ,2p14■p12に位置するSR遺伝子(■■■)異常が病因として解明された.しかし,BH4生合成系酵素の異常にもかかわらず,高フェニルアラニン血症をきたさない病態については不明な点もある.Blauらは,ヒトの肝臓ではSRが欠損していてもアルドール還元酵素(AR)がPTPを6■ラクトイルテトラヒドロプテリン(LTP)に還元し,このLTPは非酵素的にセピアプテリンとなり,カルボニル還元酵素(CR)が7,8■ジヒドロビオプテリン(BH2)に還元し,これを葉酸還元酵素(DHFR)がBH4に還元するとしている1)(図4■1左の囲んだ部分).しかし,脳ではDHFR活性が低いためBH4を合成できず,神経伝達物質の欠乏をきたすと説明している. 他方で,Iinoらは,ヒトの肝臓ではアルドースケト還元酵素(AKR1C3)がPTPを1′■ヒドロキシ2′■オキソプロピルテトラヒドロプテリンに還元し,これをさらにもう一つのアルドースケト還元酵素(AKR1B1)がBH4に還元するため,SRが欠損していても高フェニルアラニン血症にはならないとしている8). いずれの仮説にせよ,髄液中ではセピアプテリンとBH2が増加しているが,DHPR欠損症と同様,活性型のBH4は欠乏し,チロシン水酸化酵素(TH)とトリプトファン水酸化酵素(TPH)の両方の活性が低下する.2 疫学 おもに地中海周辺で患者の報告が多く,地中海地域に患者血統が存在する可能性が示唆されている.2009年度に施行した厚生労働省研究班による全国調査では患者は見出されなかったが9),その後,わが国においても,典型例が診断されるとともに軽症例も報告されるようになってきた10).から幼児期には舞踏運動や球麻痺症状を認めた症例もあった.睡眠により一部の運動障害の改善がみられ,睡眠後にOGCの消失をみた症例もあった.また,運動症状からは瀬川病action typeと類似の病変,すなわち視床下核へ入力する黒質線条体終末部のドパミン欠失が予想される. Friedmanらは,SR欠損症患者43例の臨床像を報告し,ほとんどの症例が,運動発達遅滞と言語発達遅滞,体幹の筋緊張低低下,ジストニア,筋力低下,OGCを示した7).症状の日内変動と睡眠による改善が乳児期から小児期になると明らかとなってくる.平均発症時期は7か月にもかかわらず,多くの例において脳性麻痺と診断され,精査が行われず,9歳頃に診断がついていた.低下しているのが特徴で,培養皮膚線維芽細胞のSR活性の測定,SR遺伝子(■■■)解析を行い診断する.重要となる.他のBH4欠損症との鑑別はプテリジン分析により可能.芳香族L■アミノ酸脱炭酸酵素欠損症はL■ドパには反応しないため区別される.⑤ 睡眠により一部の運動障害の改善がみられ,睡眠後に眼球回転発作の消失をみることもある.2 検査所見① 髄液HVA,5■HIAA値は低値(正常下限以下,参照)である*(表4■1)11).② 髄液プテリジン分析で,セピアプテリンが検出される(通常は検出されない)**.参考所見として,ネオプテリンは正常,ビオプテリン,ジヒドロビオプテリンが高値となること4 セピアプテリン還元酵素(SR)欠損症231 臨床病型 病型分類は提唱されていないが,症状および重症度は患者ごとに異なる.2 主要症状および臨床所見(「診断基 Nevilleらの報告では,全7例で乳児期からの運動発達遅滞と言語発達遅滞を含む認知機能発達遅滞を示した2).そのうち6例では,日内変動を伴う運動障害や早期からの眼球回転発作(OGC)を示し,5例には初期に低緊張を伴うジストニア,2例にParkinson様の振戦が認められた.乳児期には全例が体幹の筋緊張低下を示した.乳児期後半1 髄液プテリジン分析 ビオプテリン値は高値であるが活性型のBH4は SR欠損症は,日内変動を伴う運動障害,L■ドパに反応が良好であるため,症状や薬剤反応性が類似する瀬川病,若年性Parkinson病との鑑別が1 症状① 認知機能発達遅滞が認められる.② 日内変動を伴う運動障害や早期からの眼球回転発作が認められる.③ 初期に低緊張を伴うジストニア,Parkinson様の振戦が認められる.④ 乳児期には体幹の筋緊張低下を示し,乳児期後半から幼児期には舞踏運動や球麻痺症状を認めることもある.G102CQ119XN127KS136FV138DR150fsR150GP163LY196GQ206fsR219X-13G>AV9fs0.58kbE1ATGK230XK251X2.2kbE2E3TAAc.596-2A>G準」項目1.参照)診断の基準診断の根拠となる特殊検査鑑別診断診断基準

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