新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
22/99

5芳香族L—アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)a)http://www.nanbyou.or.jp/entry/615b)小児神経伝達物質病家族会:https://jpnd.org/ 芳香族L■アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)は芳香族アミノ酸から炭酸を取り除いて生体活性アミンを産生する酵素である.この酵素の欠損症はカテコールアミンやインドールアミン(セロトニン)などの神経伝達物質の産生が低下し,中枢神経障害を発症する極めてまれな遺伝疾患で,1990年,イギリスのHylandとClaytonniによって最初に報告された1). 厚生労働省は難病対策として,難治性疾患克服研究事業で行った小児神経伝達物質病研究班の成果を難治性疾患研究班情報(研究奨励分野)として難病情報センターを通じてホームページ上に公開しているa). AADCは,L■ドパをドパミンに,5■ヒドロキシトリプトファン(5■HTP)をセロトニン(5■HT)に脱炭酸化する酵素であり,神経伝達物質であるドパミン,ノルアドレナリン,アドレナリン,セロトニンの合成に必須の酵素である.その欠損症の典型例は,乳児期早期からの発達遅滞,間欠的な眼球回転発作(OGC)などの眼球運動異常および四肢ジストニアで発症し,髄液中のホモバニリン酸(HVA)および5■ヒドロキシインドール酢酸(5■HIAA)の低値など,特徴的な所見で診断される.ドパミンアゴニストなどを用いた内服治療が試みられているが,予後は不良で,多くは寝たきりの発語のない状態にとどまる.1 代謝経路 7p12.1■p12.3に存在するAADC酵素蛋白をコードする遺伝子の異常に起因する遺伝疾患で常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式である.AADC活性の欠損はL■ドパからドパミンの産生が低下し,ノルアドレナリンとアドレナリンの産生も低下するため,すべてのカテコールアミン産生の低下が引き起こされる.同時に,5■HTPからセロトニンの産生も低下する.このため髄液検査では,AADCの基質(L■ドパおよび5■HTP)とその代謝産物である3■O■メチルドパ(3■OMD)の髄液中濃度が上昇し,生成物のカテコールアミンとセロトニンの代謝産物であるHVAと5■HIAA)は著減している(図5■1)2). 血漿中ドパ脱炭酸活性は低下し,多くは測定感度以下となる.遺伝子変異は30数例の報告があり,多くはミスセンス変異である3,4).台湾においては,単一のフレームシフト変異の集積(IVS6+4A>T)が報告5)されている.現在のところ,ミスセンス変異の集積傾向はない.L■ドパ反応性の軽症例で報告された基質結合部位でのアミノ酸置換を起こすG102S変異や軽症例のS250 Fなど特徴的な変異も見つかっている5).2 疫学 2009年度に施行された厚生労働省難治性疾患克服研究事業「小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究班」(主任研究者 新宅治夫)による全国調査では,患者として明らかになったのは2家系の3人であった6).極めてまれな遺伝疾患であり,世界の報告でも100例に満たない6). このため,日本のAADC欠損症の患者家族は「小児神経伝達物質病家族会(JPND)」を立ち上げAADC欠損症以外の小児神経伝達物質病全般にかかわる希少疾患患者家族にホームページを通じて情報提供を行っているb).現時点では,8人の1疾患概要欠損症

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る