新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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a)難病情報センター:http://www.nanbyou.or.jp/entry/2371尿中に排泄されるためGHB尿症を呈する(図6■1)6). GHBは麻酔薬として開発された経緯があり,その作用はエタノールやケタミンとよく似ており,大量に使用されるとめまい,協調運動障害,悪心や嘔吐などの症状のほか,発作や昏睡も生じ,呼吸不全から死に至ることもある.しかし,本疾患の病因におけるこの内因性GHBの役割は不明である. 一方,中枢神経系における代表的な抑制性の神経伝達物質GABAの増加がみられるにもかかわらず,てんかん発作が多くみられることに関しては,動物モデルやPETによる研究などからGABA受容体のdown regulationが起こっていることがかかわっているとの推測がされている7■9).2 疫学 2009年度に施行された厚生労働省難治性疾患克服研究事業「小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究班」(主任研究者 新宅治夫)による全国調査では,患者として明らかになったのは4人であった10),a).2011年に1 臨床病型 病型分類は提唱されていないが,症状および重症度は患者ごとに異なる.2 主要症状および臨床所見 臨床症状は,通常乳児期の初期に現れはじめ,その症状には軽度から中等度の発達遅滞,精神遅滞,言語表出障害,著しい筋緊張低下,睡眠障害,不注意,多動,不安腱反射低下,非進行性小脳失調,けいれんと多彩であり,通常は非進行性だが,まれに(10%)進行性の場合がある.運動失調は年齢とともに改善する場合がある.眼球運動失行,舞踏アテトーゼ,自閉症の特徴,攻撃行動なは,1人が死亡し,1人が発見されたため,患者総数は4家系の4人であった3,4,11,12).これまでに世界で診断された患者数は約400例程度で85%は18歳未満である13). わが国で発見された5例のうち4例は重度の発達遅滞を呈しており,乳児期からのてんかん発作もみられた.発達遅滞が他の症例より比較的軽かった患者では,多動など行動の異常がみられた.Gibsonらの報告14)に含まれる明らかな発達遅滞がみられない患者は日本ではみられておらず,SSADH欠損症の軽症例は見逃されている可能性がある. SSADH欠損症を特異的に診断できる臨床症状や画像所見はみられないことから,明らかな原因がみられない発達遅滞,発達障害の小児において,積極的に尿中有機酸分析を行うことで,潜在するSSADH欠損症の患者の診断がさらに進む可能性が考えられる. 現在,有効な治療法は確立されていないが,早期診断される患者が増え,乳児期早期からの特異的治療法が確立することで,本疾患の予後が改善していくことが望まれる.どがある. 海外の報告では発達遅滞,筋緊張低下は70〜80%前後の患者,てんかん発作の合併は約半数にみられ,全身強直間代発作,欠神発作,ミオクロニー発作や未分類のものが報告されている.不注意,多動,不安など,行動の問題も半数前後の患者に認められる15). 乳児期にsick day時に脳症として発症した症例の報告もある16).一方で,成人期に診断される症例はまれであるが,臨床症状として不安,睡眠障害,強迫神経症などの精神症状が主となる13).頭部MRIでは,典型的にはT2強調像で淡蒼球の対称性の高信号を認める17). 一般的な検査において参考となる所見は認めら 症状は非特異的なものが多いが,上記の臨床像のような症状,所見がみられ,他の原因疾患が特定されていない場合には尿中有機酸分析を行い,GHDの上昇を確認することが重要である18,19).GHD上昇が確認された場合には,培養リンパ芽球を用いたSSADH活性の測定を行い,その低下により診断する.1 画像検査* MRIとプロトンMRスペクトロスコピー(1H■MRS)が有用である17).① MRI:T2強調像で淡蒼球の対称性の高信号を認める.② 1H■MRS:両側基底核にGABA濃度の上昇を1 臨床症状①知的障害②自閉スペクトラム症(ASD),不注意,多動③てんかん④言語発達遅滞⑤筋緊張低下⑥小脳失調⑦睡眠障害れない.認める.2 生化学的診断*① 尿中有機酸分析:GHBの上昇を認める.② 髄液の分析:GABAの上昇を認める.3 酵素診断**培養リンパ芽球を用いて,SSADH活性の低下により診断する.4 遺伝子解析** ダイレクトシークエンス法やMLPA法により■■■■■■■遺伝子の検索を行う.2 検査所見①尿中有機酸分析:GHBの上昇を認める.②髄液分析:GABAの上昇を認める.③培養リンパ芽球でのSSADH活性低下を認める.・脳性麻痺・GTPシクロヒドラーゼⅠ(GTPCH1)欠損症・瀬川病・ドパ反応性ジストニア・若年性Parkinsonism・セピアプテリン還元酵素(SR)欠損症・芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症・チロシン水酸化酵素(TH)欠損症・グアニジノ酢酸メチル基転位酵素(GAMT)欠損症6 コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素(SSADH)欠損症23診断の基準参考となる検査所見診断の根拠となる特殊検査鑑別診断診断基準

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