新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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た3,6).ギリシャの3症例では,すべて著明な運動遅延,乳児Parkinsonism,眼球回転異常(OGC),-→→→→+↓↓↓→+↓→↓→L⊖ドパ投与による症状改善+↓髄液HVA↓髄液MHPG髄液5⊖HIAA→→血中フェニルアラニンN↑→B↑S↑↑→N↓→B↓→N↓B↓表7■1鑑別すべき疾患との検査所見の類似点および相違点パの低下を招き,神経伝達物質であるドパミン,ノルアドレナリンなどのカテコールアミンの全般の合成を低下させる.このため,脳脊髄液濃度のホモバニリン酸(HVA)と3■メトキシ■4■ヒドロキシフェニルエチレングリコール(MHPG)の減少は,TH欠損症の生化学的特徴である. しかし,プテリジン代謝やセロトニン代謝は正常であるため,髄液中のセロトニンの代謝産物の5■ヒドロシキインドール酢酸(5■HIAA)値は正常である.したがって,HVA濃度と脳脊髄液中のHVA/5■HIAA比は,表現型の重症度と相関し1 臨床病型 11p15.5に存在するTHの遺伝子異常に起因する疾患であり,常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式である.変異部位により,DRDの病型をとるものと,進行性脳症の病型をとるものとにわかれるが,その原因の解明は,はっきりとは,なされていない. 前者は精神,知能に異常がなく,L■ドパにより症状の寛解が得られるが,後者には,現在のところ,有効な治療法は存在しない. TH欠損症における遺伝子異常は,プロモータ領域のミスセンス変異によって引き起こされるため,ほぼ例外なく変異蛋白は重大な異常をもつと考えられる.このため,共通の遺伝子異常であるc.698G>Aとc.707T>Cの変異には,遺伝子型と表現型の相関は存在しない.2 主要症状および臨床所見 発症時期と症状の程度には大きな幅があるが,通常,日内変動を認めない.発症は進行性脳症の症例で早く,生後3〜6か月に運動寡少,体幹筋緊張低下,仮面様顔貌で発症し,これに腱反射亢進,錐体路徴候,注視発症,眼瞼下垂(交感神経作動点眼薬で改善),縮瞳を伴う.また,間欠的に嗜眠を伴う全身■怠,被刺激性,発汗,流涎が発現,致命的となることもある.しかし,症例によってている(図7■1).2 疫学 過去にわが国でも症例報告が存在したが,2009年度に施行された厚生労働省難治性疾患克服研究事業「小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究班」(主任研究者 新宅治夫)による全国調査で,患者は見出されなかった2).現在,わが国では,2例のみ診断が確認されている.極めてまれな遺伝疾患で,世界の報告でも50例に満たない3).はこれらの症状を示さず,進行性の運動障害のみ認めることもある. DRDを主症状とする症例は,初発症状はジストニアと筋強剛で,乳児期から幼児期に発現する.このジストニアは,下肢から全身に広がる.また,乳児期早期に振戦が下肢に始まり,頭部,舌,上肢と広がる.症例によっては,これらの運動症状は睡眠により改善を示すことがある.筋強剛,ジストニアを主体とする症例では,知的発達は正常である.症状は多彩であり,症例によりその強度が異なり,多様性を示すが,特定の合併症は認められない. 最近,台湾から報告された6例では,2例は周産期に胎児仮死を呈したが,残りの4例は新生児期に異常はなく,生後3か月頃に振戦を発症した4).イタリアでは,TH欠損に起因する早期発症の重症の脳症(精神運動発達の停滞,四肢の発作性ジストニア姿勢や動き,運動機能低下)が報告されている5).また,中国からは,乳児期発症の重症型から3歳発症の軽症型まで12人の患者(2〜41歳)の報告があり,重症型の患者は難治性の脳症を伴い,運動発達遅延のある乳児Parkinsonismを発症していた.軽症型の患者はあまり一般的ではないが,DRDや,または新しく認識されたおもな症状としてミオパチーを呈していた.より重症の姉妹例では,症状と治療効果は,脳脊髄液中のHVA値とHVA/5■HIAA比に強く関連してい 一般的な検査において,参考となる所見は認め1 髄液検査* THの生成物となるモノアミン類の代謝産物であるHVAとMHPGの髄液中濃度が低下するが,セロトニンの代謝産物5■HIAAは,正常であることが特徴的である.2 血中プロラクチン* 中国の12例の報告では,高プロラクチン血症は,重度の症例の50%に認められた6) 脳性麻痺,GTPシクロヒドロラーゼⅠ(GTPCH)欠損症,瀬川病,若年性Parkinsonism,セピアプテリン還元酵素(SR)欠損症,芳香族L■アミノおよび自律神経機能不全を発症していた.られない.3 血中プテリジン分析**,アミノ酸分析(フェニルアラニン,チロシン)* TH欠損症では,正常である.他の疾患との鑑別のために実施することが望ましい.4 遺伝子解析** ギリシャの3例はすべて以前に報告された変異(p.L236P)のホモ接合性であった7).しかし,中国の8例のTH欠損症の遺伝子解析では,共通の変異は見つからなかった8).酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症,コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素(SSADH)欠損症が鑑別としてあげられ,表7■1に検査所見の違いを示す.THSRAADC欠損症+-↓↓↓→SSADH欠損症血中プテリジン分析血中プロラクチンTH:チロシン水酸化酵素,GTPCH:GTPシクロヒドロラーゼⅠ,SR:セピアプテリン還元酵素,AADC:芳香族L⊖アミノ酸脱炭酸酵素,SSADH:,HVA:ホモバニリン酸,MHPG:3⊖メトキシ⊖4⊖ヒドロキシフェニルエチレングリコール,5⊖HIAA:5⊖ヒドロシキインドール酢酸,N:ネオプテリン,B:ビオプテリン,S:セピアプテリン脳性麻痺-→→→→欠損症正常正常↑→GTPCH欠損症瀬川病++↓↓↓↓↓↓→→↑Parkinsonism若年性正常↑→→→→→237 チロシン水酸化酵素(TH)欠損症欠損症正常正常↑→診断の基準参考となる検査所見診断の根拠となる特殊検査鑑別診断

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