新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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❸ 若年型(juvenile form)③ ミトコンドリアDNAからの転写物のプロセシングに必要なRNasePを構成する3蛋白(HSD10,MRPP1,MRPP3)の1つ本酵素は幅広い組織で発現し,特に肝臓,心臓,脳で強く発現している.また,アミロイドβ蛋白と親和性がありAlzheimer病の発症にも関与することが明らかとなっている3).本疾患の病態としては,イソロイシン代謝系やミトコンドリア内コレステロール代謝系などの酵素活性低下は主でなく,RNasePの構成蛋白の機能低下が本態であるともいわれている.同じHSD10病でも遺伝子変異の種類によって臨床像に非常に大きな差異があり,詳しい病態は不明な部分が多い.発見の経緯から有機酸血症に分類されることが多いが,疾患の本態としてはむしろミトコンドリア病に似る.HSD10病はX連鎖遺伝形式をとり,ヘテロ女性でも何らかの症状を呈する例が多く,注意を要する.1 臨床病型 新生児型は最重症となり,極めて予後不良である.その他の病型は明確には定義されていないが,臨床病型の分類としては下記のZschockeの分類が用いられることが多い2).遺伝子型■表現型の相関が強く,遺伝子変異の種類によって臨床像に非常に大きな差異がある.❶ 新生児型(neonatal form)新生児期に発症する重症型である.重篤な乳酸アシドーシスで発症し,神経学的発達を示さず,進行性心筋症を合併し,生後数か月で死亡する.❷ 乳児型(infantile form)本疾患の典型例である.新生児期に一過性の代謝障害があっても回復し,その後6〜18か月間はほぼ正常児と同程度の発達を示すが,その後の軽微な疾患,予防接種などを契機に進行性の神経退行が現れ,言語・運動の消失,失調,舞踏アテトーゼなどを起こす.難治性けいれん,失明,心筋症などを合併し,生後2〜数年で死亡する.1 代謝経路 代謝経路としては,①イソロイシン代謝系の2M3HBD,②ミトコンドリア内コレステロール代謝系の17β■hydroxysteroid脱水素酵素,③ミトコンドリアRNasePの3種類の機能が関係する(図10■1).2 疫学 まれな疾患であり,正確な有病率はわかっていない.これまでに世界で40例程度が報告されており,日本では3例の報告があるが4,5),未診断例が多いと考えられている. 最近,カナダの4家系10症例(全員がp.L122V変異をもっており,創始者効果によると考えられる)の症例報告があったが6),わが国における高頻度変異は不明である.若年期発症型.1例の報告があり(p.E249Q),5歳まで正常発達を示し,6歳時に麻疹へ罹患した後,緩徐に言語・運動の退行が生じた7).❹ 非典型例(atypical presentation)上記❶〜❸に属さず,軽症と考えられる症例が知られている.報告例では神経退行を認めていないが,長期経過は不明である.❺ ヘテロ女性無症状の場合もあるが,軽度の知的障害,学習障害,聴力障害を示すことが多い.2 主要症状および臨床所見 臨床的な多様性,重症度を示す疾患である.新生児型の重症例は,生後早期から嗜眠,哺乳不良,ミトコントドリア機能異常の所見を呈し,それに引き続いて発達遅滞や筋緊張の異常が現れる.神経変性が進行すると,進行性の運動失調,舞踏アテトーゼなどを呈するようになる.臨床検査所見としては,乳酸アシドーシス,低血糖,高アンモニア血症などがある.飢餓時に低血糖,ケトーシスなどを伴って発症することがある. また,臨床型によるが,以下のような臨床所見が報告されている.・ 成長障害:進行性の成長障害(低身長,低体重)と小頭症を示すことがある.・ 神経学的所見:上気道炎,胃腸炎などの軽微な疾患や予防接種などを契機に退行が始まり,獲得した言語・運動機能の消失,失調,舞踏アテトーゼなどを起こす.難治性けいれんを合併することがある.・ 眼科的所見:網膜症,失明をきたすことがある.1 一般検査所見 増悪期にケトン性低血糖症,高乳酸血症(L/P比の高値),アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスが認められる.高アンモニア血症を呈1 血中アシルカルニチン分析(タンデ C5:1,C5■OHの高値がみられる.しかし,本疾患では明らかな異常が認められないこともある.2 尿中有機酸分析*A) 典型例ではTIG,2M3HBDの排泄増加を認める.B) 原則として2■メチルアセト酢酸(2MAA)の排泄増加を認めない.B)がβケトチオラーゼ欠損症との鑑別に有用な所見とされる.ただし,2MAAは不安定な物質であり,βケトチオラーゼ欠損症であっても検出されないことがあるため,十分な注意を要する.・ 耳鼻科的所見:難聴を合併することがある.・ 心臓所見:肥大型もしくは拡張型の進行性心筋症を合併することがある.国内では,2012年にわが国初(アジア初)となるHSD10病(p.A154T変異)の症例が報告された5).これまでに国内で報告された3症例のうち2症例(p.A154T変異例とp.A157V変異例)は,幼児期発症で比較的症状が軽い「非典型例」と考えられ,神経退行は目立っておらず,小学校にて通常学級に通級できている4).一方,p.R226Q変異例は新生児期に発症しており重症の新生児型と考えられ,11か月時にアシドーシス発作を契機に亡くなっている.することもある.2 画像検査 頭部MRIでは,前側頭部ないし全大脳皮質の萎縮や基底核病変がしばしば認められる.3 酵素活性測定** 皮膚線維芽細胞を用いた酵素活性測定で,イソロイシン代謝系における2M3HBD酵素活性の低下を認めることが多い.しかし,必ずしも重症度に相関するとは限らず,患者であってもほとんど活性低下を示さない例もある8). HSD10はムーンライト蛋白であるため,2M3HBDの酵素活性低下によりイソロイシン代謝経路が阻害されていても,RNasePのミトコンドリア調節機能がそれほど影響を受けていない場合は,軽症や無症状となる可能性がある6,9).4 遺伝学的検査** ■■■■■■■■遺伝子にヘミ接合の遺伝子変異が同定される.遺伝子型■表現型の相関が強く,p.D86G,p.N247S,p.R226Qなどは重症の新生児10 HSD10病23ムマス法)*診断の基準参考となる検査所見診断の根拠となる特殊検査

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