新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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2高チロシン血症(1型,2型,3型) 高チロシン血症は,3つの病型に分類される.1型(MIM #276700)は,フマリルアセト酢酸加水分解酵素(FAH;EC 3.7.1.2)が欠損することで発症する.細胞内に蓄積するフマリルアセト酢酸およびその代謝産物(サクシニルアセトンなど)の毒性により種々の病態が生じる.肝細胞では,種々の遺伝子発現の異常,酵素活性の阻害,アポトーシス,染色体の不安定と癌化が生じる.高チロシン血症1型患者における低血糖,アミノ酸やその代謝障害,凝固因子の低下などは,遺伝子発現の低下によると考えられる.また,若年性肝細胞癌が高頻度で出現するのは,染色体の不安定性と関連している.アポトーシスによる細胞死は,肝不全へと進行する.近位尿細管障害も出現し,アミノ酸尿,糖尿,代謝性アシドーシスなどのFanconi症候群,低リン血症性くる病を発症する. 2型(MIM #276600)は,細胞質チロシンアミノ基転移酵素(TAT;EC 2.6.1.5)が欠損することで発症する.体液中のチロシン濃度が高値になることで臨床症状を呈する.細胞内でのチロシン結晶化による細胞障害は,温度の低い皮膚や角膜に出現しやすく,眼皮膚型高チロシン血症,Rich-ner■Hanhart症候群ともよばれる. 3型(MIM #276710)は,4■ヒドロキシピルビン酸二酸素添加酵素(HPD;EC 2.6.1.5)が欠損することで発症する.チロシンと4■ヒドロキシフェニルピルビン酸が増加する.精神遅滞とけいれんは,チロシンと4■ヒドロキシフェニルピルビン酸などのチロシン代謝産物の増加が関係している.1 代謝経路チロシンは,最終的に細胞質でフマル酸,アセト酢酸に分解される.高チロシン血症1型はチロシンの代謝経路の最終酵素であるFAHが欠損することで発症する1,2).代謝が阻害されることにより,毒性のある中間代謝産物であるフマリルアセト酢酸やその分解産物であるサクシニルアセトンの体内濃度が上昇し,肝障害,腎尿細管障害などを引き起こす3)(図2■1).また,サクシニルアセトンがポルフォビリノーゲン合成酵素の活性を阻害し,ポルフィリン症に類似した症状を呈することもある(図2■1). 高チロシン血症1型の80%は肝不全の徴候が生後数週から数か月で生じ,その多くが生後2〜8か月で肝不全のため,死亡する.また,同一家族内発症であっても,臨床症状が多様なときがある.2か月以前で発症した症例の1年死亡率は60%とされている4).また,生存例でも,2歳以降までには肝硬変を呈し,さらに肝細胞癌を合併する場合もある.Weinbergらは2歳以上での肝細胞癌の合併率は37%であると報告している5).ニチシノン(NTBC)が治療薬として保険収載され,使用可能となった(詳細は別途記載).高チロシン血症2型は,細胞質チロシンアミノ基転移酵素(TAT;EC 2.6.1.5)が欠損することで発症し,高チロシン血症3型は,4■ヒドロキシピルビン酸二酸素添加酵素(HPD;EC 2.6.1.5)が欠損することで発症する(図2■1).2 疫学 高チロシン血症1型,2型,3型は,それぞれ常染色体劣性の遺伝形式をとり,15番染色体長腕上の■■■(15q23■q25),16番染色体長腕上の■■■(16q22.1■q22.3),12番染色体長腕上の■■■(12q24■qter)がそれぞれ原因遺伝子である. 世界における高チロシン血症1型の頻度は,10万〜12万人に1人と推定されている7).わが国の200万人を対象とした新生児マススクリーニング(NBS)の試験研究では見つかっておらず,わが国1疾患概要

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