新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
50/99

が避けられることから,診断を確定して適切にフォローを行うことが重要である.1 代謝経路(図11■1)ケトン体(3ヒドロキシ酪酸やアセト酢酸)は,おもに肝臓において糖の代替エネルギー源としてβ酸化により産生される.飢餓状態,感染などグルカゴン・カテコールアミンが優位な状態で産生が亢進する.肝外組織ではケトン体を取り込み,SCOTによりアセトアセチルCoAに活性化し,さらにアセチルCoAとなりTCAサイクルに入り,エネルギーへと変換される.SCOTは肝外組織に1 診療病型❶ 発症前型家族内に発症者がいる場合の家系内検索および胎児診断30)などで発見される無症状例を指す.❷ 急性発症型新生児期と,生後数か月〜2歳頃の乳幼児期に2つの発症ピークがある1■3).1 一般検査所見❶ ケトアシドーシス時・ 著しい代謝性アシドーシス(pH<7.3,HCO3<15 mmol/L)▶ 典型例ではpH<7.2,HCO3<10 mmol/Lを示す.・ 総ケトン体>7 mM(日本ではμmol/Lで示されることが多いので7,000μmol/L)▶ 典型例では10 mMを超える.・ 遊離脂肪酸≪総ケトン体おいてケトン体をエネルギーとして利用するために必須であり,本酵素の欠損はケトン体産生亢進時にケトン体を利用できないため,著しいケトアシドーシスをきたす.2 疫学これまで世界で30数例の報告があり4■29),わが国では4家系6症例が診断されている10,18,24).SCOT欠損症ヘテロ接合体でケトアシドーシス発作を起こした症例は,わが国からのみ報告されており,上記4家系とは別に,6例報告されている6).2 主要症状および臨床所見❶ 新生児発症例患者の半数は新生児期に哺乳障害,多呼吸などで発症し,ケトアシドーシス発作をきたす.非発作時は無症状である.❷ 乳幼児期発症例通常,生後数か月〜2歳頃に,飢餓や感染を契機に嘔吐,多呼吸,意識障害などを伴うケトアシドーシス発作をきたす.非発作時は無症状である.加が乏しい. 発作早期から遊離脂肪酸/総ケトン体比は0.3を切ることが多い.・ 血糖:高血糖,低血糖,どちらもとりうる.❷ 非発作時食事摂取時も含めて血中ケトンが常に高く,尿ケトン体の陽性が持続するなど持続性ケトーシスが認められた際に本症が疑われる.しかし,持続性ケトーシスのない非典型例も存在する18).▶ 総ケトン体の増加に比して,遊離脂肪酸の増a)http://www.jsiem.com/4 遺伝子解析** 通常,父母由来の両アレルに病因となる変異が同定される.ただし,一部の遺伝子型ではヘテロ接合体でもケトアシドーシス発作を発症することがある. 2022年3月時点で,日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業「難プラ標準レジストリーを使用し,新生児マススクリーニング対象疾患等の遺伝子変異を考慮したガイドライン改定に向けたエビデンス創出研究」(笹井班)として,遺伝子変異を同定してフォローするという事業を行っている.実施状況についてはホームページで確認可能である.能性のある疾患である.有機酸分析,アシルカルニチン分析所見,酵素活性,遺伝子解析で最終的に鑑別する.なお,本疾患はわが国ではまだ報告されていない.3 ロタウイルス感染症などによる著し SCOT欠損症もロタウイルス感染などに伴って発症することがあるが,重篤な胃腸炎などではSCOT活性が正常でも「参考となる検査所見」のうち「1.一般検査所見」に示すような著しいケトアシドーシス所見を示すことがある.11 スクシニル—CoA:3—ケト酸CoAトランスフェラーゼ(SCOT)欠損症231 尿中有機酸分析* 非特異的所見をとるが,他のケトアシドーシスをきたす疾患の鑑別上,重要である.2 タンデムマスによるアシルカルニチ 本疾患に特徴的な所見はないが,他のケトアシドーシスをきたす疾患の鑑別上重要である.3 酵素活性,イムノブロット(リンパ 酵素活性ではSCOT活性の著しい低下(正常の20%以下),もしくはイムノブロットでSCOT蛋白の著しい低下(正常の20%以下)がみられる.1 β⊖ケトチオラーゼ欠損症 本症と同様のケトアシドーシス発作をきたす疾患である.典型例では有機酸分析で2■メチルアセト酢酸(2MAA),2■メチル3■ヒドロキシ酪酸,チグリルグリシン(TIG)の排泄増加やアシルカルニチン分析ではC5:1,C5■OH増加など特徴的な所見を認めることから鑑別を行う.ただし,軽症例では上記の検査での生化学診断が困難な場合もある.最終的には酵素活性,遺伝子解析で鑑別する必要がある.2 モノカルボン酸トランスポーター1 本症と同様のケトアシドーシス発作をきたす可ン分析*球,線維芽細胞)**欠損症31)い異化によるケトアシドーシス診断の基準参考となる検査所見診断の根拠となる特殊検査鑑別診断

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る