新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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 糖新生系全体の代謝マップは図12■1の通りである.実際には,糖新生系の基質は肝細胞のミトコンドリアにおいて最終的にオキサロ酢酸に変換されるが,オキサロ酢酸はミトコンドリア膜を通過できないため,リンゴ酸に変換されて細胞質に1 臨床病型 以前は新生児期および乳児期に死亡した重症例のみが報告されていたが3■6),近年では合併症のないPEPCK1欠損症の長期生存例の報告が複数あり,疾患スペクトラムが拡張されつつある7■9).PEPCK1欠損症とPEPCK2欠損症の相違点については,症例数が少ないため,不明である.2 主要症状および臨床所見 典型的には新生児または乳児期早期に,低血 急性期の検査で,グルカゴンに反応しない重度の低血糖,高アンモニア血症,代謝性アシドーシス,乳酸/ピルビン酸比が正常の高乳酸血症,ケトーシスを起こす.1 尿中有機酸分析 急性期のクリティカルサンプルにおいて,フマル酸・コハク酸・リンゴ酸などのTCA回路に関する物質の上昇,ケトン性ジカルボン酸尿が特徴的である8,9).グリセロールが検出されないことは,フルクトース■1,6■ビスホスファターゼ欠損症との鑑別に有用である.オロト酸も検出されうる.2 酵素活性測定 細胞質に存在するPEPCK1の活性測定のためには,肝組織から細胞質とミトコンドリアそれぞ移動し,再びオキサロ酢酸に戻された後に,PEPCK1によってホスホエノールピルビン酸に変換される.また,ミトコンドリア内ではPEPCK2によってオキサロ酢酸からホスホエノールピルビン酸に変換される.糖,高乳酸血症,発育不全,急性肝不全,筋緊張低下を起こす.急性増悪時では,糖新生系によるブドウ糖産生が障害されることを反映し,急性胃腸炎などの感染および異化亢進時や,12時間程度の絶食を契機とした低血糖で発症することが多い●合併症として精神運動発達遅滞,小頭症,脳萎縮,視神経萎縮,腎尿細管性アシドーシス,心筋症などが報告されている.ただし,近年の長期生存例では,合併症のない例も報告されている. 血中アミノ酸分析では尿素サイクル異常症と類似した,グルタミン上昇,シトルリン低下,アルギニン低下を示す.肝逸脱酵素上昇,高トリグリセリド血症,凝固異常の合併例も報告されている.れの分画に分離したうえでの活性測定が必要である10).白血球や線維芽細胞などの末■組織ではPEPCKの大部分がミトコンドリア由来であるため,PEPCK2の活性測定は可能だが,PEPCK1の評価は困難である.なお2021年現在,国内での実施はむずかしい.3 遺伝子解析 ■■■■遺伝子または■■■■遺伝子に両アレル性の病的バリアントを検出する.2021年現在,保険収載されておらず,研究的検査として行うしかない.・ フルクトース■1,6■ビスホスファターゼ欠損症・ 糖原病Ⅰ型・ ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症① 12時間以上の絶食または急性胃腸炎などの経口摂取不良・異化亢進時において低血糖をきたし,高乳酸血症・高アンモニア血症・ケトーシスなどを伴う.② 急性期の検体を用いた尿中有機酸分析で,TCA回路に関する物質の上昇やケトン性ジカルボン酸尿を認めるが,グリセロールは検出されない.③ PEPCK1またはPEPCK2の活性低下を認める. 現在のところ,重症度分類は存在しない. 本疾患は新生児マススクリーニング(NBS)の 長時間の飢餓を避ける.血糖コントロールが困難な場合は,少量頻回食やコーンスターチ療法を 血糖コントロールの評価,食事療法の調整を行・ フルクトース不耐症・ 有機酸代謝異常症・ ミトコンドリア病・ PEPCK1:生検肝から分離した細胞質分画を用いて測定する.・ PEPCK2:生検肝から分離したミトコンドリア分画を用いて測定する.リンパ球や線維芽細胞を用いてもよい.④ PCK1遺伝子またはPCK2遺伝子に両アレル性の病的バリアントを検出する.①および②を満たし,③または④のうち,いずれかひとつを満たす場合に,確定診断とする.2019」の「代謝救急診療ガイドライン」の項に準じる.考慮する.う.心臓・腎臓の合併症や発達評価も行う.12 ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)欠損症23診断の基準参考となる検査所見診断の根拠となる特殊検査鑑別診断診断基準重症度分類新生児マススクリーニング(NBS)で疑われた場合対象疾患ではない.急性発作で発症した場合の診療 乳酸を含まない輸液製剤でブドウ糖の経静脈投与を行い,低血糖の補正を行う.詳細は「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン慢性期の管理フォローアップ指針

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