新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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①②③④⑥23図2■1チロシンの代謝経路①チロシンアミノ基転移酵素(tyrosine aminotransferase),②4⊖ヒドロキシピルビン酸二酸素添加酵素(4⊖OH⊖phenylpy-ruvic acid dioxygenase:HPD),③ホモゲンチジン酸二酸素添加酵素(homogentisate 1,2⊖dioxygenase),④フマリルアセト酢酸加水分解酵素(fumarylacetoacetic acid hydrolase:FAH),⑤アスパラギン酸アミノ基転移酵素(aspartate aminotrans-ferase),⑥ポルフォビリノーゲン合成酵素(5⊖aminolevulinic acid dehydratase).における頻度はさらに低いと考えられている.また,高チロシン血症2型は,わが国では数例程度,高チロシン血症3型はさらにまれである. わが国での高チロシン血症1型の症例はこれまでに7例認められている8).1例目は1957年に報告されたが,これは世界で第1例目でもある.2,3例目は同胞例で,1例は肝移植を施行され,もう1例はNTBC投与後に肝移植を施行されている9).4例目はNTBCでの治療後に肝移植を施行された.5例目はNTBCで治療継続中である10).これら5例は亜急性型であり酵素の活性がある程度残っていたことが想像された.6例目と7例目は,兄妹例であり,新生児期に劇症肝炎を呈し,血液透析とNTBC投与開始後に肝移植を施行された症例(兄)と,乳児期になって血中チロシン値とαフェトプロテイン(AFP)値が高値となり,尿中サクシニルアセトン高値と遺伝子検査で診断が確定した症例(妹)である. 高チロシン血症2型は,わが国ではこれまでに10例ほど報告されており,いずれも角膜混濁・角膜びらんなどの角膜所見と足底・手掌の角化などの皮膚所見を認めている11■18).高チロシン血症3型のわが国発症例の報告は,医中誌検索において認められない.遠藤らが,新生児期(生後21日後)に肺炎に伴ってけいれんを発症し,その後(生後29日後)に濾紙血で高チロシン血症が判明し,チロシン制限治療を受け,血中チロシン値が約100μmol/Lまで低下したにもかかわらず神経学的症状は改善しなかった症例と,知的障害が軽度に認められたその母の症例を高チロシン血症3型の症例として唯一報告している19).2 高チロシン血症(1型,2型,3型)1 臨床病型 高チロシン血症1型には,①急性型,②亜急性型,③慢性型の3つの病型がある20,21).❶ 高チロシン血症1型(1)急性型生後数か月以内で発症する.肝障害は肝硬変へ進展し,肝結節や肝腫瘍を生じる.触診上,肝臓は硬く触れる.肝不全による低血糖や高インスリン血症を認める.発育不良,下痢,嘔吐などもみられる.最重症の症例では0〜2か月で肝不全を発症する.無治療であれば生後2〜3か月で死亡する.(2)亜急性型生後数か月から1歳程度で肝障害を発症する.発症時期が早いほど重症度が高い.おもな特徴は,凝固能異常と成長障害,肝脾腫,くる病である.(3)慢性型1歳以上で発症する.肝障害がおもな症状であるが,腎障害を合併することもある.時に心筋症,神経障害を合併する.肝障害の進行は緩やかであるが,診断時には肝硬変をすでに認めている症例が多い.❷ 高チロシン血症2,3型高チロシン血症2型と3型には,特に臨床病型はない.高チロシン血症2型では,1型と3型に比べて血中チロシン値が高値であり,1型で認められる肝・腎障害は認められない.また,高チロシン血症3型の症状は,1型や2型に比べて軽度であり,無症状の症例もある.2 主要症状および臨床所見❶ 高チロシン血症1型臨床像では進行する肝障害と腎尿細管障害,末■神経障害が特徴である.臨床症状の重症度は酵素障害の重症度,すなわち遺伝子変異と関連している21).(1)肝障害最も重篤な障害を受ける臓器である.凝固能異常による出血,低アルブミン血症による浮腫,腹水を認めることが多く,黄疸,肝酵素の上昇は軽度なことが多い.肝障害は肝硬変へ進展し,肝結節や肝腫瘍を生じる.触診上,肝臓は硬く触れる.進行すれば肝不全による低血糖や高インスリン血症を認める.(2)腎障害Fanconi症候群としてみられる尿細管障害が特徴的である.重症度は様々である.典型例ではアミノ酸尿,糖尿,リン酸塩尿と尿細管アシドーシスを認めるがすべてを認めるとは限らない.低リン血症性くる病やビタミンD抵抗性くる病へと進展する.腎障害は腎石灰沈着症,糸球体硬化症,慢性腎不全へと進行する.腎障害は有意な所見であるが,常に肝障害を伴って存在する.(3)末梢神経最も特徴的な神経障害はポルフィリン症様の症状である.感染,ストレスなどを契機に引き起こされる.これはサクシニルアセトンがポルフォビリノーゲン合成酵素を阻害する結果,5■アミノレブリン酸が蓄積するため,生じるとされている.遺伝疾患である急性間欠性ポルフィリン血症と同様の症状を認める.発作は時に重篤で,急性腹症のような強い腹痛や,急激な血圧上昇を伴う自律神経症状を認めるため,neurologic crisesとよばれている.消化器症状はほかに,悪心,嘔吐,重度の便秘,まれに下痢を認める.精神症状は,易刺激性,不穏,不眠症,興奮,疲労,抑うつなどが認められる.上行性の運動神経障害が急速に進行し,人工呼吸が必要となる症例もしばしば認められる.❷ 高チロシン血症2型肝・腎障害はみられない.チロシン結晶は低温で析出しやすく,皮膚病変はチロシン結晶の析出により出現し,過剰角化やびらんが手掌・足底に好発する.また,角膜において同様にチロシン結晶が析出し,びらん・潰瘍が生じる.角膜の変化は,生後数か月から認められることが多いが,思春期以降になって明らかになることもある.ヘルフェニルアラニン4-ヒドロキシフェニルピルビン酸Inhibitor:NTBCホモゲンチジン酸マレイルアセト酢酸フマリルアセト酢酸フマル酸チロシン高チロシン血症2型高チロシン血症3型アルカプトン尿症高チロシン血症1型アセト酢酸5-アミノレブリン酸4-ヒドロキシフェニルピルビン酸4-ヒドロキシフェニル酢酸サクシニルアセト酢酸サクシニルアセトンミトコンドリアチロシン⑤ポルフォビリノーゲン診断の基準

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