新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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図14■15図14■14生後3歳の患者治療開始が遅く,頭髪の異常は改善したが,神経障害は全く改善しなかった. 生後7日目よりヒスチジン銅を開始したMenkes病患者❷ 新生児期にヒスチジン銅治療を開始した場合で分析可能で,かずさDNA研究所で分析可能であるa).・培養皮膚線維芽細胞の銅濃度が著明に高い 発端者の遺伝子異常が同定されていたら,遺伝子解析による胎内診断は可能である7).胎児が女児であれば,胎内診断は行う必要はない(一般に女子は,ヘテロ接合性であり,本症の症状・障害はみられないため).男児の場合は,両親と十分に 本症患者の症状・所見は,本症に特徴的であり,診断がつきにくく症例はほとんどない.新生児期や乳児期に硬膜下出血や骨折がある場合は,虐待も鑑別する39).鑑別するには,血清銅,セルロプラスミン値を調べる.神経症状があり,血清銅,セルロプラスミンが低値であるときは,先天性グリコシル化異常症 Menkes病でヒスチジン銅の皮下注射を生後2か月以降に(新生児期を過ぎて)開始した場合,ほぼ全例,神経障害はほとんど改善しないで,難治性けいれん・寝たきりの重度の神経障害,結合織異常による血管蛇行・出血を発症するので,重 新生児マススクリーニング(NBS)の対象疾患1 急性発作で発症した場合 乳児期前半でけいれんが初発症状の場合が多い.抗けいれん薬を投与する.けいれんが減少・消失した9人では,バルプロ酸ナトリウム投与が話し合い,胎内診断を検討する. 胎内で早期に診断し,早期から治療をはじめることも一部検討されているが,出生後に速やかに治療を開始する場合と比べてすぐれているかどうかは明らかではない24).(CDG;先天性糖鎖異常症)を鑑別する.CDGでは,血清トランスフェリンアイソフォームの異常で鑑別ができる40). Wilson病も乳児期から血清銅とセルロプラスミンが低値であるが,乳児期に神経症状を示すことはない.症度では,最重症に分類され,症例により重症度の程度が異なることはない.軽症型本症では,残存酵素の程度により,症状の程度は患者により異なり,軽症型と分類される.ではない.7例,ゾニサミド投与が5例,クロナゼパム投与が3人とバルプロ酸ナトリウム使用が最も多かった.けいれんはバルプロサン,フェノバール,クロナゼパン,ゾニサイドなどで改善することが多い29).▶ 病態を反映した最も信頼性が高い確定診断法である.しかし,現在,培養皮膚線維芽細胞の銅濃度を測定できる施設はないと思われる.新生児期に治療を開始した場合は,神経症状は典型例に比べて著しく軽い.症状の程度は,遺伝子変異部位や残存活性の程度による. けいれんを発症する例もあるが,けいれんがみられない例も報告されている41). Christodoulouらは,4例の早期治療を開始した本症患者で10〜20歳の年齢で,学業成績は,2例は年齢相当,1年遅れが1例,4年遅れが1例で,1例に運動失調があり,膀胱憩室が2例にみられたと報告している40). わが国でも生後7日よりヒスチジン銅を開始した本症患者で,頸定9か月,つかまり立ち2歳,発語1歳6か月で,運動発達はやや遅れているが,知能発達はほぼ正常で,けいれんも認められていない例が報告されている(図14■15)23,42).3 補助的治療 けいれんに対しては抗てんかん薬の投与を行うが,難治性である.小沢らの本症に関する症状・治療の実態の全国調査では,抗てんかん薬のけいれんに対する治療効果は消失2例,減少9例,不変2例,不明1例で,約69%で改善がみられている26).使用薬剤はバルプロ酸ナトリウムが最も多く,ゾニサミド,クロナゼパム,フェノバルビタール,クロバザム,ビタミンB6などで,3剤併用が最も多かった29). 繰り返す尿路感染に対しては,感染時の抗菌薬投与とともに,抗菌薬の予防内服や尿管カテーテルを使用することも行われている29).膀胱皮膚瘻を造設して,尿路感染の再発を防ぐことができた1014 Menkes病11 一過性低体温,頭髪異常,骨折,硬膜下出血,膀胱憩室といった臨床症状などを合併している場合は,本症を鑑別診断に考えて,血清銅,セルロプラスミンを測定し,診断を進める.2 慢性期の管理❶ ヒスチジン銅の皮下注射本症と診断された場合,できるだけ早期にヒスチジン銅の皮下注射を開始する.ヒスチジン銅は市販されていないため,病院薬剤部と相談し,病院薬局製剤を参考に各施設で作成する必要がある.日本では治療薬として承認されていないため,各施設での倫理委員会承認が必要である.ヒスチジン銅皮下注射のめやすは,血清銅,セルロプラスミン値を基準範囲内に維持することである.通常は,銅として70〜150μg/kg/回を,投与開始時には連日あるいは隔日皮下投与する.血清銅・セルロプラスミン値が基準値に達した後は,基準値を維持できるように週1〜3回の投与へと調整する.しかし,治療開始が,生後2か月以降であれば頭髪異常や血清銅,セルロプラスミン値は改善するが,神経障害,筋力低下,結合織異常は改善しない(図14■14). Vairoらは,治療開始が生後2か月以降であれば,神経障害は全く改善しないので,ヒスチジン銅の治療は該当しないと述べている24).しかし,わが国ではヒスチジン銅の継続を希望する家族が多い.出生前診断鑑別診断重症度分類新生児マススクリーニング(NBS)で疑われた場合治療・管理

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