新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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 先天性葉酸吸収不全(HFM)は葉酸の輸送体であるproton■coupled folate transporter(PCFT;■■■■■■■)の機能喪失を原因とする常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患である1■3).PCFTの分布は十二指腸,空腸上部で最も高く,空腸下部から回腸上部にかけて次第に低下し,回腸下部にはほとんど存在しない.腸管からの葉酸吸収不全により,乳児期早期から巨赤芽球性貧血,免疫不全,遷延性下痢などをきたす4■7).PCFTは脳脈絡膜にも発現しており,葉酸受容体α(FRα)とともに,葉酸輸送にも関与しているため,精神遅滞・けいれんなどの中枢神経症状も認められる. これまでに37家系(うち遺伝子診断は30家系)の報告例がある3).わが国からの報告は疑い例も含め数例の報告があるが8■12),遺伝子診断での確定例の報告は4例のみである13).1 代謝経路 葉酸は化学的にはプテロイルモノグルタミン酸1 臨床病型❶ 慢性進行型生後数か月(出生時に蓄積された葉酸が枯渇するためと推察される)から巨赤芽球性貧血,反復する肺炎,遷延性下痢,体重増加不良で発症する.未診断例における生命予後は不良である15).治療により葉酸の血中濃度を維持することで,貧血・下痢・易感染性のコントロールが可能である.しかしながら,脳脊髄液での濃度の上昇が得られない場合には,神経症状が進行する5,16).およびその種々の誘導体を指す.生体内では1炭素単位(one carbon unit)の転移反応に重要な役割を担い,アミノ酸や核酸の代謝に関与している.哺乳類では生体内で葉酸を生合成することができないため,食事から摂取する必要がある.「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」報告書によると,18歳以上の葉酸推奨量は240μg/日,乳児におけるめやす量は0〜5か月40μg/日,6〜11か月60μg/日である14). 医薬品などで一般に用いられている葉酸(folic acid;フォリアミン®など)は酸化型であり,血中では還元型でメチル基をもつ5■メチルテトラヒドロ葉酸として存在する.メトトレキサート使用時にレスキューとして用いられるロイコボリン®(calcium folinate;ホリナートカルシウム)は5■ホルミルテトラヒドロ葉酸である.2 主要症状および臨床所見・ 大球性貧血・巨赤芽球性貧血,好中球過分葉・ 免疫不全・易感染性:低免疫グロブリン血症に伴うニューモシスチス肺炎合併の報告が多い2,8,17■21)・ 食思不振,体重増加不良・ 遷延性下痢,口腔粘膜炎・ 神経症状:精神遅滞,認知および行動障害,運動障害,運動失調,けいれん・ 感染症や貧血,けいれん重積により乳児早期に死亡した同胞の家族歴1疾患概要診断の基準16先天性葉酸吸収不全(HFM)

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