新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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BBB89❸ Sick dayの対応❷ 画像検査―腹部超音波検査(エコー),腹部❷ 薬物療法❶ 食事療法ン血症1型における肝移植後の生活の質(QOL)は良好である.肝移植の適応は肝不全と腫瘍性病変である42).新生児や乳児発症で重篤な肝障害を認める症例のうち,内科的治療に反応しない場合は緊急での生体肝移植が選択される.肝移植を待つ間,血液透析,血漿交換などの浄化療法が必要になる場合もある.肝細胞癌の診断がつき,肝外病変を認めない場合,または肝細胞癌が疑われる場合は,早急に肝移植チームによる移植適応の評価が必要である.神経学的評価は重要であるが,4歳頃までは予後予測が困難である.発達評価としては初回の知能検査を就学前に行い,以後は症状の進行に応じて定期的に行う.❹ その他・眼検査:年1回程度・骨密度評価:年1回程度・ 手関節X線:(乳児期にくる病の評価として)血清Ca,P,ALPの値をみながら2〜3か月に1回程度2 高チロシン血症(1型,2型,3型)重篤な肝障害をきたした症例では高チロシン血症1型を疑い,末■血液像,一般生化学検査,凝固能検査,アンモニア測定に加え,血漿アミノ酸分析も行う.確定診断には尿中有機酸分析が必須であるため,尿を採取後,冷凍保存し,速やかに専門機関へ分析を依頼する.❷ 急性期の検査肝酵素,アンモニア,AFP,凝固能,腎機能検査,血ガス,血漿/尿中アミノ酸分析,尿中有機酸分析,腹部エコー,(必要に応じて腹部造影CTまたはMRI).❸ 急性期の治療方針(1)状態の安定化(急性肝不全の場合)B①気管挿管と人工換気(必要であれば).②静脈ルートの確保.(2)血液浄化療法,血漿交換 急性肝不全で,著明な凝固能異常や高アンモニア血症を認めた場合は速やかに実施する.新生児〜乳幼児では循環動態への影響を考慮し持続血チロシン・フェニルアラニンの摂取制限を目的とした,特殊ミルクを併用した蛋白制限を継続する必要がある.血中チロシンの上昇は髄液中のチロシン濃度にも関連すると報告されており,血中・髄液中のチロシン濃度がけいれんや知的レベルに影響を与えていると考えられている.そのため,血漿チロシン値を200〜400μmol/L(200〜500μmol/Lとの報告もある)でコントロールすることを目標とする.眼の合併症はチロシンが800μmol/Lを下まわっている場合はまれである.液濾過透析が第一選択となる.肝移植を含めて実施可能な高次医療施設へ速やかに搬送することが重要である.(3)ニチノシン(NTBC)投与診断が確定後,あるいは診断がついていなくても尿中サクシニルアセトンの排泄増加を認め高チロシン血症1型が強く疑われる場合は,適切な専門施設に検体を送付したのち速やかにNTBC投与を開始する.1 mg/kg/日を1日1回で投与する(半減期が54時間であるため)29).患者の状態によって量を増減するが,上限量は2 mg/kg/日である.NTBCを使用しない例では肝不全に至ることが多く,肝移植が行われることが多い.また,NTBCを使用した例でも肝臓癌の発生例では肝移植が行われる21).❹ 食事療法 NTBCと低チロシン・低フェニルアラニン食の併用療法が第一選択である.これにより症状がコントロール可能な場合は治療を継続する.肝障害の進行をできるだけ早く防止することが重要である.❺ 肝移植急性肝不全に対して,上記治療でもコントロール困難である場合は,肝移植が選択される.肝移植を受けていない場合の高チロシン血症1型ではNTBC内服の継続が必要である.NTBC内服によって血漿チロシン濃値が上昇するため,血漿チロシン濃度を定期的に測定する必要がある.腎尿細管機能障害による低リン血症性くる病に対しては,血清カルシウム(Ca),リン(P),アルカリホスファターゼ(ALP),25■ヒドロキシビタミンD〔25(OH)D〕,1,25■ジヒドロキシビタミンD3〔1,25■(OH)2D〕値を定期的に計測し,リンやビタミンD製剤による補充を検討する.高チロシン血症1型では,感染を契機に急性間欠性ポルフィリン症に似た症状が出現するおそれがある.消化器症状等に対しては対症療法が必要となる.エネルギー摂取不足でも発症することがあるため,その場合はブドウ糖の点滴が有効である.❹ 移植医療国内では,遺伝性高チロシン血症および疑い例による生体肝移植症例が日本肝移植研究会に2015年現在で13例登録されている41).高チロシ1 高チロシン血症1型❶ 一般的評価と栄養学的評価栄養制限により体重増加不良をきたさないように注意する.①身長・体重測定②血液検査・検査間隔:初期は月1回・血漿アミノ酸分析,血清AFP,末■血液像,一般生化学検査,1,25■(OH)2D③尿検査・検査間隔:初期は月1回・ 尿一般検査,尿生化学検査〔尿中N■アセチルグルコサミニダーゼ(NAG),尿中β2ミクログロブリン(β2MG)など〕肝逸脱酵素上昇の有無,腎機能障害の有無について評価する.AFPは治療の効果が出れば治療開始後1年ほどで正常化するが,個人差がある.AFPの減少が緩徐の場合,正常化しない場合や軽度の上昇の場合は,肝腫瘍の有無について画像検査により注意深く観察する.④尿中有機酸分析・必要に応じて行う・評価項目:サクシニルアセトンNTBC投与後では,尿中サクシニルアセトンが陰性になることが治療効果判定として有効である.MRI検査,腹部CT検査腹部エコーは全症例に施行すべきである.マルチスライスCTは多断面再構成像の作成が可能で空間分解能にすぐれているので,肝臓の異常病変の描出が可能である.ただし,すでに悪性腫瘍のリスクがあるため,被曝のデメリットを考慮する必要がある.腹部MRIは結節病変の描出,鑑別のための最もよい画像検査であるため,結節病変を認めた場合は,腹部MRIまで施行することが望ましい.ガドリニウムによるダイナミック撮影により,結節の血管増生の有無を分析できる.拡散強調画像(DWI)では高分化肝細胞癌と良性結節との鑑別が可能である.NTBC投与中にAFPの上昇がなく肝腫瘍を認めた症例もあるため,定期的に検査を行う必要がある43).❸ 神経学的評価および精神発達評価急性発作で発症した場合の診療 急性発作で発症しうるのは,高チロシン血症1型であり,2型と3型ではまず考えられないため,高チロシン血症1型のみ記載する.1 高チロシン血症1型❶ 確定診断慢性期の管理20,30)フォローアップ指針

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