新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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3,4,5→→→早発性てんかん性脳症→6789↓↓23→↑↑DOORS症候群(重症例)表18■1報告されている先天性GPI欠損症(IGD)ており,酵素や受容体,接着因子,補体制御因子など個体発生や神経発達,免疫機能,受精など非常に重要な働きを担っている. 図18■1に示すように,GPI■APは,細胞内の小胞体(ER)で蛋白部分とGPI部分が別々に合成される.GPI付加シグナルをもった前駆蛋白が,GPIトランスアミダーゼ(GPIT)酵素複合体に認識されてシグナルが除去され,GPIが付加される(図18■1;吹き出し). ここまでの生合成のステップにかかわる遺伝子群を■■■遺伝子とよび,アルファベットで■■■■■から■■まである.蛋白の付加後もERとGolgi体で様々な修飾を受けて,細胞膜表面のラフトとよばれるコレステロールに富む領域に運ばれる.この修飾にかかわる遺伝子群を■■■■遺伝子とよび,■■■■■から■まである1). これらに,最近同定された■■■■■■■と■■■■を加えた30個の遺伝子のいずれかに変異が起こって発症する疾患を先天性GPI欠損症(IGD)とよび,多くが常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患である.このうち,■■■■のみがX染色体上の遺伝子で,X連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)性を示す.GPI生合成が完全欠損すると,胎生致死となるため,患者の多くは活性が低下する部分欠損症である2).したがって,量的にGPIが限られているため,GPI付加シグナルの強い前駆蛋白は優先的にGPIが付加され,弱い前駆蛋白は付加されずに発現が低下する.こうして患者では多くのGPI■APの発現が様々な程度に低下している. 2022年現在,30個の遺伝子のうち24個の遺伝子変異によるIGDが報告されている(表18■1)3■36).IGDは2010年以降になって次々と見つかってきた疾患で,この12年間に国内で約52例,海外を含めて約400例の患者が見つかっている.以前から知られていたてんかん,知的障害,高アルカリホスファターゼ(ALP)血症を呈する1 臨床病型❶ GPI⊖APの発現低下を伴う型(フローサイトメトリー解析で顆粒球におけるCD16の発現低下を伴うIGD*1)GPI■APの発現低下に起因する共通の症状(精神運動発達の遅れ,けいれん,異常顔貌,手指骨の異常,難聴,視力異常,Hirschsprung病や腎奇形などの多臓器奇形)を示す.・高ALP血症を伴うIGDPGAP2*3欠損症など▶ PIGW*2,PIGV*2,PIGB*2,PIGO*2,Mabry病がIGDであることが明らかになった.さらに,横隔膜ヘルニアに手指・足趾の末節骨や爪の欠損を伴うFryns症候群が,PIGN,PIGV,PIGO,PIGW欠損症の最重症例とオーバーラップすることがわかってきた.また,難聴,手指骨の異常,知的障害,けいれんをきたすDOORS症候群と診断された症例のなかにもIGDが見つかっている.2017年度より指定難病(320),2018年度より小児慢性特定疾病(28)に認定されている.注)上記のように,現在使われている病名が複数ある.IGDは先天性糖鎖異常症(CDG)の1病型で,CDGでは「遺伝子名■CDG」で病名を表す.われわれはIGDをそのうちの1カテゴリーとして遺伝子名■IGD(例:■■■■■IGD)とすることを提唱している. IGDは,狭義にはGPIの生合成,蛋白への付加および修飾に関係する上記の遺伝子の変異により,それらがコードする蛋白の発現や活性の低下が起こり,細胞表面のGPI■APの発現低下や構造異常をきたすことにより発症する遺伝性の疾患である.広義には上記の遺伝子以外で,GPI■APの輸送や,発現に関係する遺伝子などの変異により,二次的に細胞表面のGPI■APの発現低下や輸送の異常が起こる遺伝疾患も含める. 生合成経路については,図18■1を参照.・正常ALP値のIGD・低ALP血症を伴うIGD注)*1:軽症では顆粒球上のCD16の低下を示さない症例もある.*2:生合成後期ステップの遺伝子欠損症では,ERにて前駆蛋白がプロセスされた後,GPIに付加されずに分泌蛋白として放出されるので,高ALP血症をきたす37).▶ PIGA,PIGC,PIGH,PIGP,PIGQ,PIGY,PIGL,PIGM,PIGN,PIGF,ARV1*4欠損症など▶ PIGT*5,PIGS*5,PIGK*5欠損症などPIGAGPIBD4MCAHS2 1 GPI⊖GlcNAc転移酵素複合体(GPI⊖GnT)PIGCGPIBD16PIGHGPIBD17PIGPGPIBD14PIGQGPIBD19PIGYGPIBD12HPMRS6PIGLGPIBD5 2 PIGWGPIBD11HPMRS5↑↑早発性てんかん性脳症,横隔膜ヘルニア(Fryns症 4 PIGMGPIBD1 5 PIGVGPIBD2HPMRS1↑↑横隔膜ヘルニア(Fryns症候群)PIGNGPIBD3MCAHS1→横隔膜ヘルニア(Fryns症候群),進行性小脳萎縮, 6 7 PIGBGPIBD20PIGOGPIBD6HPMRS2↑↑横隔膜ヘルニア(Fryns症候群),他の内臓奇形, 8 9 PIGFGPIBD24PIGGGPIBD1310PIGKGPIBD2211GPIトランスアミダーゼ複合体(GPIT)PIGSGPIBD18PIGTGPIBD7MCAHS3↓PIGUGPIBD21GPAA1GPIBD15PGAP1GPIBD9PGAP3GPIBD10HPMRS4↑↑睡眠障害,内臓奇形はまれPGAP2GPIBD8HPMRS3↑↑小頭症,内臓奇形,ミトコンドリア異常ARV1GPIBD23121415不明ALP:アルカリホスファターゼ,GPIBD:GPI biosynthesis defect,MCAHS:multiple congenital anomalies hypotonia seizures syndrome,HPMR:hyperphosphatasia mental reterdation(Mabry病と同義語),CHIME:coloboma heart defect ichthyosiformdermatosis mental retardation and ear anomalies,DOORS:deafness, onychodystrophy, osteodystrophy, mental retardation, andseizures,Fryns症候群:横隔膜ヘルニア,手指の異常,顔貌異常,その他の奇形遺伝子MIM生合成ステップ1011,121314,151617,18,192021,2223,24,252628,29,3031323334,35,36別名(一部)(一部)(一部)→門脈血栓症,知的障害なし,てんかん(報告例は(一部)(一部)(一部)→進行性小脳萎縮,皮質盲→骨粗鬆症,進行性小脳萎縮→遺伝性痙性麻痺→内臓奇形はまれ.ALP→CHIME syndromeDOORS症候群,ミトコンドリア異常共通症状以外の特徴的な症状早発性てんかん性脳症,魚鱗癬様皮膚症,歯の異常,鉄代謝異常,脂質異常,内臓奇形はまれ早発性てんかん性脳症,心奇形,水腎症長管骨の短縮ぶどう膜欠損(眼の異常),心奇形魚鱗癬様皮膚症候群)Dandy⊖Walker syndromeプロモーターの異常)魚鱗癬様皮膚症→DOORS症候群→完全欠損でも生存可,内臓奇形はまれ,自閉症,ミトコンドリア異常歯の異常,進行性小脳萎縮早発性てんかん性脳症,皮質盲,DOORS症候群27歯の異常,骨粗鬆症,皮質盲,小脳萎縮文献18 先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症診断の基準

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