新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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図19■2グルコーストランスポーター1型(GLUT1)欠損症の表現型スペクトラムと診断への手がかり(Gras D, et al.:GLUT1 deficiency syndrome:an update. Rev Neurol(Paris)2014;170:91⊖99を基に作成)❸ 発作性症状❶ 初発症状ニアなど)などの慢性神経症状,およびてんかん性や非てんかん性の発作性症状を呈し,多様な臨床症状の組合せによって特徴づけられる(図19■2)5). 表現型スペクトラムは幅広く,臨床的重症度も軽度の運動や認知機能障害から,重度の神経学的障害まで様々である.重度の表現型(古典型)は,治療抵抗性の乳児期発症てんかん発作,その後の発達遅滞・知的障害,後天性小頭症,そして運動失調・痙縮・ジストニアなどの組合せを伴う複合1 臨床病型 GLUT1欠損症では,発症時期や臨床像による的運動異常症を呈する.本症は治療可能な疾患であり,ケトン体を脳の代替エネルギー源として供給するケトン食(KD)療法は根本的かつ第一選択の治療法である3■6,9■13).1 疫学 欧米からの報告では,有病率は8〜40万人に1人と推定された3).日本小児神経学会が支援する共同研究におけるわが国の全国実態調査では80人以上の存在が確認されている(2021年3月時点).一般的な病型分類はない.表現型は幅広く,重症度も様々で,GLUT1蛋白の残存活性に依存したスペクトラム症とみなすべきである.19■2)5)非てんかん性発作誘発:空腹,運動,疲労・睡眠不足,発熱・感染症,ストレス改善:食事,安静,休息・睡眠古典型表現型慢性神経症状てんかん発作19 グルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症23軽症例では,発作性症状が本症の唯一の症状ということもある.特に,発作性労作誘発性ジスキネジア,早期発症欠神てんかん,ミオクロニー脱力発作てんかんの患者では,GLUT1欠損症を考慮する必要がある.(1)てんかん発作本症の中核的症状であり,患者の80〜90%に認める.本来,てんかん発作は非誘発性発作である.発症は通常乳児期前半で,成人期はまれである.発作型は様々で,約70%で複数の発作型を有する.全般性強直間代発作や定型欠神発作が多く,ほかにミオクロニー発作,非定型欠神発作,焦点発作,脱力発作,強直発作を認め,まれにスパスムスもある.低月齢発症および多様な発作型や脳波所見を呈するてんかんでは,GLUT1欠損症を考慮するべきである.また,抗てんかん薬治療に対する抵抗性やKD療法に対する劇的な反応も診断を強く示唆する.(2)非てんかん性発作患者の約30〜75%に生じ,発作性運動異常症(発作性労作誘発性ジスキネジア,発作性非運動誘発性ジスキネジア,周期性運動失調症,ジストニア,舞踏病,ミオクローヌス,Parkinsonism),さらに発作性の脱力・運動麻痺,協調運動障害,■痛(頭痛など),嘔吐,身体違和感,無気力・眠気・意識変容などがある. 発作は通常数分から数時間続き,その頻度は1日に数回から年に数回と幅広い.てんかん発作と異なり,意識はおおむね保たれる.非てんかん性発作としてのミオクローヌスは本症では一般的でないが,その場合には動作・姿勢時や驚愕反応性に現れる.持続的な運動で誘発される発作性ジスキネジアが本症の唯一の症状であることもある.複数の発作性症状を有する場合には,診断に対する非常によい手がかりとなる. こうした発作性症状の典型的な誘発因子は,空腹(特に早朝空腹)と運動である.疲労・睡眠不足,発熱,感染症などの併発症,および心理的ストレスも誘因となるが,自然にも起こりうる.そ発作性運動異常症(発作性労作誘発性ジスキネジア,発作性非運動誘発性ジスキネジア,周期性運動失調症,ジストニア,舞踏病,ミオクローヌス,パーキンソ二ズム),発作性の脱力・運動麻痺,協調運動障害,疼痛(頭痛など),嘔吐,不快感,無気力・眠気・意識変容(傾眠~錯乱)〈診断への手がかり〉特に成人期〈診断への手がかり〉特に乳児期初期発作症状(けいれん発作,異常眼球運動発作,無呼吸・チアノーゼ発作)治療抵抗性てんかん,知的障害,後天性小頭症,痙性,運動失調,複合的運動異常症歩行障害(運動失調 and/or 痙性),運動失調・構語障害,ジストニア,舞踏アテトーゼ,ミオクローヌス,振戦,知的障害・認知障害・学習障害早期発症欠神てんかん,特発性全般てんかん,ミオクロニーてんかん,ミオクロニー脱力発作てんかん,焦点性てんかん,転倒発作,スパスムス薬物治療抵抗性/ケトン食(KD)〈診断への手がかり〉特に小児期療法反応性/非定型欠神発作/“家族性特発性全般てんかん+発作性労作誘発性ジスキネジア” グルコース取り込み試験から測定された残存活性が50%となる大領域欠失,ナンセンス,フレームシフト,スプライシング部位変異などの蛋白合成が中断される変異では重度の表現型(古典型)を示す14).残存活性が50〜75%となるミスセンス変異では症状は軽症化し,75%以上の活性を有している場合には,一過性の軽微な症候のみを示す例(軽症例)もある.2 主要症状および臨床所見3■7,15,16)(図けいれん発作,異常眼球運動発作,無呼吸・チアノーゼ発作が乳児期に認められる.異常眼球運動発作はオプソクローヌス様,眼振様で,しばしば同方向への頭部の動きを伴う.❷ 慢性神経症状知的障害や,運動失調,痙性(麻痺の有無にかかわらず),ジストニアなどの運動異常症を呈し,様々な組合せで出現する.(1)認知機能障害認知機能は正常から重度の知的障害まで様々である.知的障害は80〜98%で観察されるが,しばしば軽度である.重度知的障害は,早発型の古典的表現型において,より頻度が多く,頭囲の成長とも関連する.(2)運動異常症運動症状は,空腹,運動,疲労で増強し,食事,安静,休息によって改善することがあるが,古典的表現型の患者では,はっきりした誘因なく悪化することもある.約90%に歩行障害があり,失調性または痙性歩行またはその両者からなる.運動失調症は通常は軽度で変動する.痙性麻痺が強いと,自力で歩けないこともある.言語障害の頻度も多く,痙性,失調性,および運動過剰性の混合性構音障害の形をとる.運動異常症には,動作時ジストニア,舞踏アテトーゼ,ミオクローヌス,振戦,チック,および常同症などの様々な組合せが含まれる.ジストニアは最も多い運動異常症で遠位部優位に現れ,歩行や走行時に悪化する.診断の基準

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