新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
97/99

❷ 薬物治療 V GLUT1欠損症を疑う臨床症状および診断への手がかりを図19■25)に示す.1 疑診❶ 神経症状(1)乳児期発症の初発症状:「疾患概要」>「2.主要症状および臨床所見」>「①初発症状」を参照(2)認知機能障害,後天性小頭症:「疾患概要」>「2.主要症状および臨床所見」>「②慢性神経症状」>「(1)認知機能障害」を参照(3)(複合的)運動異常症:「疾患概要」>「2.主要症状および臨床所見」>「②慢性神経症状」>「(2)運動異常症」を参照(4)てんかん発作:「疾患概要」>「2.主要症状および臨床所見」>「③発作性症状」>「(1)てんかん発作」を参照(5)非てんかん性発作:「疾患概要」>「2.主要症状および臨床所見」>「③発作性症状」>「(2)非てんかん発作」を参照❷ 代謝異常を示唆する所見(6)症状が空腹,運動,疲労・睡眠不足で増悪し,食事(KD療法前なら糖質摂取),安静,休息・睡眠で改善 本症においては,てんかん発作や非てんかん性発作が急性期症状となる.けいれん発作が5分以上持続すれば抗けいれん薬治療を行う.KD療法中で低血糖が原因であれば,通常の低血糖の対応を行う. 理論的に,GLUT1機能を抑制するジアゼパム,1 対症療法5,9)❶ 自己管理 B増悪因子となる,空腹(特に早朝空腹時),運(7)慢性神経症状の程度が変動(8)脳波異常が食事やグルコース静注で改善(9)KD療法による症状の改善❸ 家族歴(10)「①神経症状」または「②代謝異常を示唆する所見」を呈する血縁者の存在 「①神経症状」のうち1項目以上,かつ「②代謝異常を示唆する所見」または「③家族歴」の1項目以上があれば,疑診(possible)とする.2 確定診断(図19■3)4,5) 疑診例に対し,(低血糖の不在下で)髄液糖値低下および髄液乳酸値正常〜低下(「参考となる検査所見」の「1.髄液検査」を参照)があれば,準確診(probable),病因となる■■■■■■遺伝子変異の同定(「診断の根拠となる特殊検査」の「1.遺伝子解析」を参照)があれば,確定診断(definite)とする. 赤血球3■■■メチル■■■グルコース取り込み能の低下(現状,必須検査ではない;「診断の根拠となる特殊検査」の「2.赤血球取り込み試験」を参照)の所見も診断には有用であるが,現状では国内での検査は困難である.フェノバルビタールの使用については利益が上回る場合には慎重投与でもよい D.非てんかん性発作(てんかん発作との区別がむずかしい場合もある)に対しては,意識消失を伴わない場合,安静,KD療法中ならチーズなどのケトン体産生に有利な食材の補食,睡眠で改善を待つ C5).動,体温上昇(発熱,暑い日,入浴),疲労・睡眠不足を回避する.理論的に,GLUT1の機能を抑制する飲食物(エタノール,カフェイン)は避けておいたほうがよい. KD療法には,古典的KDや修正Atkins食など,いくつかの種類があるが,年齢,病状,患者・家族のコンプライアンスも考慮し,病院の体制や患者・家族の希望に応じて選択する(図19■3)4,5).低グリセミック指数食については本症では推奨されない.導入時に絶食は必要とせず,外来でも治療を開始することはできるが,栄養士を含む連携チームによる周到なモニタリングを必要とする.くだもの,野菜,穀物などが制限されるため,ビタミン・ミネラル・食物線維が不足する.必要に応じて,欠乏しやすい水溶性ビタミン,L■カルニチン,ミネラルを内服薬で補充する B.外因性ケトンであるケトンサプリメント(ケトンソルト,ケトンエステル)の直接投与により,炭水化物を制限せずにふつうの食事をしていてもケトン濃度を増加させることは可能だが,治療薬としては研究途上にある D.3 その他の治療3■5,19)*** 食用油トリヘプタノインは,GLUT1欠損症の有望な治療法としての初期報告にもかかわらず,発作症状に対するランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験では有効性を示せなかった(ClinicalTrials.gov:NCT02960217)II.4 治療の展望 VI 最近,GLUT1欠損症モデルマウスに対し,アデノ随伴ウイルスベクターを用いてヒト■■■■■■遺伝子を導入した結果,運動機能と髄液糖低値の改善が得られたという研究成果も報告されており,今後の臨床応用が期待される20).また,GLUT1蛋白の発現と機能を増強する低分子化合物や生物学的製剤を標的とした治療研究も進行中である21).5 Sick dayの対応 IVVI 食思不振時,発熱時,疲労時に症状が増悪する可能性があるが,他の先天代謝異常症にみられる緊急性を要する重篤な急性増悪はない.内服薬については,KD療法中であることと,シロップ薬や糖質を含む粉薬は投与禁止であることを記載すてんかん発作は抗てんかん薬に対して治療抵抗性である.発作型によって抗てんかん薬*を選択することになるが B,炭酸脱水酵素阻害薬であるアセタゾラミドやゾニサミドが有効との報告もある C.アセタゾラミドは,発作性運動異常症を治療するうえでの選択肢**ともなる.一方,アセタゾラミド,ゾニサミド,トピラメートは炭酸脱水酵素を阻害し,代謝性アシドーシスを増強することで尿路結石の原因にもなりうることから,その使用は慎重にすべきとの意見もある D. 理論的に,GLUT1の機能を抑制する薬物(フェノバルビタール,抱水クロラール,ジアゼパム,バルプロ酸,テオフィリン,および三環系抗うつ薬)の使用については利益がうえまわる場合には慎重投与でもよい D.実際,ベンゾジアゼピン系やバルプロ酸で発作が制御されていることもある.❸ 理学療法 VI基本的および応用的動作能力の改善,維持を目的に行う.2 食事療法3■6,9■13)B グルコースに代わりケトン体をエネルギー源として供給するKD療法は,GLUT1欠損症における標準治療である.てんかん発作やその他の発作性症状,空腹時の一過性の増悪に著効し,発作間欠期の運動異常症の緩徐な改善とともに,認知機能,注意力,覚醒度の向上も期待される.GLUT1欠損症が疑われたならば,できる限り早期に,どの年齢でも開始し,そして効果があれば,成人期まで維持されるべきである3■5,11)(図19■3)4,5). 本症は,KD療法用の調製粉乳であるケトンフォーミュラ(明治817■B)の適応疾患であり,乳児早期からの治療も可能である.ケトンフォーミュラを12%濃度(10 gに対し湯60 ccがめやす)に溶解し,単一調乳ケトン指数2.92のKDとして用いる.ケトンフォーミュラの安定供給が懸念されており,適正使用を考えた綿密な栄養管理が必要とされる.また,KD療法用の特殊ミルクであるKetoCal®や,飲料であるKetoVie®,KETO-NIA®などの輸入も検討する必要がある.19 グルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症67診断基準4,5,7)急性期の治療慢性期の管理

元のページ  ../index.html#97

このブックを見る