新生児マススクリーニングガイド対象疾患等診療ガイドライン
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る.錠剤やカプセルを用いるが,粉砕や脱カプセルが必要なときには,乳糖などの賦形剤も投与禁止と記載する.同様に,輸液を要する場合にはグルコースを含まない製剤で補液するが,低血糖時や経口摂取不良が長期化するとき,さらには災害時にKDを用意できないときも,グルコース入り1 一般的評価と栄養学的評価3,5,12,13,22) KD療法が適正に行われているか,治療による副作用がないかを評価する.KD療法の合併症として,悪心/嘔吐・下痢・便秘などの胃腸症状,易感染性,脂質異常症,高尿酸血症のモニターが必要となる.初期には,脱水,低血糖,電解質異常,維持期には,成長障害,尿路結石,骨密度低下,まれに,心血管疾患,肝機能障害,急性膵炎の出現に注意する.❶ 受診間隔①〜④は初期には月1回以上,状態が安定すれば2〜3か月に1回,⑤,⑥は年に1〜2回,⑦は必要時に受診.① 身長,体重測定による成長・栄養学的評価② 血液検査:空腹時の血中脂質プロファイル,血糖,尿酸,電解質,微量元素,カルニチン分画,逸脱酵素を測定する.治療効果のモニタリングとしてのケトン体分画測定は必須であり,血中βヒドロキシ酪酸濃度は2〜5 mmol/Lをめやすとする.③ 尿検査:尿ケトン体定性では2〜3+以上をめやすとすればよいが,血中ケトン体値が低くても陽性となる場合があり,参考にとどめる.家庭でも1日1回定時(起床時)や体調不良時に確認してもらうとよい.ケトン体が十分に出ていなければ食事内容の見直し,および食材に実は糖質が多く含まれていないかの確認が必要である.尿カルシウム/クレアチニン比が0.2以上(7歳以上)の場合は高カルシウム尿症である.④ 便秘,下痢,高尿酸血症,高カルシウム尿症・尿路結石に対し,水分摂取量や食事内容の見直の輸液治療を含めて一時的なKDの中断はやむを得ない. 運動異常症の増悪は,補食や安静で様子をみる.てんかん発作については,状況によって入院での薬剤治療を検討する.し,必要に応じて内服療法を行う.⑤ 骨密度低下は,骨関連酵素プロファイル,骨代謝ホルモンや骨密度の測定で評価し,必要時には,カルシウムとビタミンDの補充で予防する.⑥ 腹部超音波検査で尿路結石の有無を確認する.⑦ 栄養相談:メニューなどの助言を得る.2 神経学的評価加齢に伴う病状の変化を経過観察し,治療の効果を判定する.❶ 受診間隔①〜②治療開始時は月に2回以上,安定期は2〜3か月に1回受診.① 病歴聴取,神経学的診察を行う.② 血液・尿検査:抗てんかん薬療法が行われている場合,血中濃度や副作用をチェックする目的で行う.③ 脳波検査:発作型,および非てんかん性発作であるかを発作時脳波で鑑別する.発作間欠期脳波では,てんかんの活動性や治療効果を評価する.安定期には年に1〜2回行う.④ 発達・知能検査:治療効果の評価を1年ごとに行う.就学前や書類作成時にも必要となる.⑤ リハビリテーション:身体機能障害の状態を評価し,発達の促進,日常生活動作能力の向上,生活の質(QOL)の改善を目的に,訓練や装具・車椅子作成などを適時行う.3 遺伝カウンセリング本疾患は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で遺伝する疾患であるが,まれに常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)やモザイク変異による家族例も報告されている23,24).患者のおよそ10%は,同一家系内で複数の患者が発症している家族例である25).親が体細胞モザイク変異を有する場合には,変異アレルを有する細胞の割合が低いと親は軽症である.また,体細胞には変異がなく,精子や卵子の前 発作性症状が本症の唯一の症状ということもある.特に,発作性労作誘発性ジスキネジアや早期発症全般てんかんの患者では,GLUT1欠損症を考慮する必要がある.軽微な症状の患者ではKD療法を行わずとも,カフェイン,エタノールの摂取を中止したり,早朝に糖質摂取を行うだけでも,QOLが改善される可能性がある14,23,26). 古典型GLUT1欠損症患者において,てんかんは小児期の重要な所見であるが,思春期を経て軽減し,さらには消失することもある3,26).一方,痙性麻痺や運動失調などの運動異常症,発作性労作誘発性ジスキネジアや他の発作性症状が思春期以降に新たに出現したり,小児期から認められていれば悪化することもある. 認知機能は一生を通じて安定しており,知的退行はない.1 食事療法の継続 成人期医療への移行にあたり,一番の難点となっているのがKD療法の継続性である.長期予後や弊害についてはいまだ不明である3).本症のてんかん発作の予後はよく,成人での脳のエネルギー需要は少なくなっているため,KD療法の糖質制限緩和を検討することができる.しかし,治療により安定した病状を維持し,QOLの向上を期待するうえでも,現実的には薬物治療を含めた治療の段階的中止は容易ではない.成人期に新規にKD療法を開始することに対しては,KDの有害作用や妊娠への影響が不明な点で,議論の余地がある.駆細胞である生殖細胞にのみ変異をもつ場合には,親は無症状である.遺伝カウンセリングに際しては,このようなモザイク変異を有する親から子への遺伝の可能性についても留意する必要がある. 軽症例では,KD療法を継続するか否かは,KD療法による症状やQOLの改善というメリットと,社会的・経済的・身体的問題というデメリットを比較して,決めてよい.ただし,自己防衛的な糖質の過剰摂取は肥満に至ることには注意が必要である.2 飲酒エタノールはGLUT1機能を抑制し,また,てんかんや,運動異常症による歩行障害もあることから避けるべきである.3 運動 発作性症状,特に非てんかん性発作は持続運動や疲労を誘因とすることがあり,休息・睡眠,食事(KD療法中でなければ糖質摂取)により改善する.4 妊娠・出産 本症の妊娠管理に関する報告はない.軽症例での実例はあり,てんかんの重篤度や生活能力で妊娠・出産・育児が現実的であるかを考える必要がある.一般に,月経や妊娠によりてんかん発作が増悪することに留意し,催奇形性を考えての抗てんかん薬の調整も必要である.5 医療費の問題 本疾患は,20歳未満までは小児慢性特定疾病(先天代謝異常番号73),成人期は指定難病(番号19 グルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症89フォローアップ指針軽症例に対する対応成人期の課題

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