日本先天代謝異常学会雑誌

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ISSN:0912-0122

2023 Vol.39 No.1
JJIMD2022-002
慢性心不全を呈したGaucher病3型の男児例
▼著者名
桝野 浩彰1)、渡辺 健1)、山下 純英1)、阿久澤 大智1)、荒井 篤1)、宮本 尚幸1)、本倉 浩嗣1)、濱田 悠介2)、成田 綾3)、酒井 規夫4)、秦 大資1)
▼所属
1) 公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院小児科
2) 大阪大学大学院医学系研究科小児科学
3) 鳥取大学医学部附属病院脳神経小児科
4) 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻成育小児科学
▼要旨
Gaucher病において心病変は稀である。今までの報告は心弁膜石灰化を示す症例が主で心筋障害を示唆するものは極めて少ない。今回、慢性心不全を呈した症例を経験した。症例は1歳0か月男児、βグルコセレブロシダーゼ活性低下、臨床像からGaucher病3型と診断した。その際、左室拡大と高血圧を指摘された。1歳2か月時に酵素補充療法を開始し、1歳3か月時にシャペロン療法を追加した。比較的速やかに貧血・血小板減少、喘鳴は一方向性に改善した。一方、心病変は1歳3か月時に左室拡大が増悪したため潜在的左心機能不全および・または後負荷不適合と考えアンギオテンシンII受容体拮抗薬を導入し漸増した。1歳7か月時に心拡大が再増悪しBNPが低下しないため慢性心不全としてβ1選択的遮断薬を追加し漸増した。その後、左室拡大が改善しBNPも低下した。3歳3か月時、左室拡大が再増悪し僧帽弁閉鎖不全が出現したため、利尿薬を追加し左室拡大は改善した。4歳3か月時、左室拡大が再増悪したため体重増加に伴い実質的に減量されていた投与中の薬剤を増量し、左室拡大が改善した。今回の経験では、心病変については寛解増悪を繰り返し、一方向性には改善が認められなかった。したがって心合併症の併発に留意し、積極的に介入する必要があると考える。
2022 Vol.38 No.1
JJIMD2022-001
新生児スクリーニング陰性であったが横紋筋融解を機に診断したCPT2欠損症の乳児例
▼著者名
桑山 信希1) 2)、野口 篤子1)、土田 聡子2)、田村 真通2)、村上 耕介3)、湯浅 光織4)、但馬 剛5)、高橋 勉1)
▼所属
1) 秋田大学医学部小児科
2) 秋田赤十字病院小児科
3) 国立感染症研究所ウイルス第二部
4) 福井大学医学部小児科
5) 国立成育医療研究センターマススクリーニング研究室
▼要旨
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ2(CPT2)欠損症には、低ケトン性低血糖や脳症、突然死が認められる新生児期発症型や乳幼児発症型など臨床表現型が重篤で早期診断が重要となる病型と、遅発型(骨格筋型)といわれる軽症型とが存在し、時に遅発型は新生児マススクリーニング(NBS)では陰性となる。今回、新生児マススクリーニングでは陰性と判定されたが、生後8ヶ月より感染症を契機とした横紋筋融解症を繰り返し、診断に至った遅発型CPT2欠損症の乳児例を経験した。
 症例は発育発達正常な11ヶ月の男児で、生後8ヶ月時にノロウイルス感染により発熱と経口摂取不良を来たし第3病日に入院となった。この際血清クレアチニンキナーゼ(CK)は71,566U/Lまで上昇し、一時的に座位保持が困難となったが低血糖やアシドーシスはなく、補液のみでCKは正常域に回復した。しかし患児は以後もRSウイルス感染や上気道炎の度に中等度のCK上昇を反復した。その後、急性期および安定期の血清タンデムマス分析、CPT2酵素活性、脂肪酸代謝能の結果よりCPT2欠損症と診断した。本例では既報の遅発型で報告されたバリアント[p.C445R]と新規バリアント[p.T491S]、および熱不安定性バリアントとして知られる[p.F352C]をいずれもヘテロ接合性に同定した。
 遅発型CPT2欠損症は新生児マススクリーニングでは陽性判定されない場合もあることから、発熱等を契機に横紋筋融解症を反復する症例では積極的に血清タンデムマス分析を行うことが有用である。
2021 Vol.37 No.1
JJIMD2020-001-2
ビタミンB1とケトンフォーミュラを早期導入したPDHC欠損症の新生児男児例
▼著者名
山口 智之1) 2)、小野 未希2)、福島 直喜2)、内藤 悦雄3)、井原 健二1)
▼所属
1) 大分大学医学部小児科学講座
2) 大分市医師会立アルメイダ病院小児科・新生児内科
3) 徳島赤十字ひのみね総合療育センター小児科
▼要旨
症例は36週2日、体重2318gで出生した男児。出生時より筋緊張の低下と高乳酸血症と代謝性アシドーシスが持続し、意識障害、無呼吸発作、哺乳不全を認めた。炭酸水素ナトリウム投与を開始し全身状態が安定した後も高乳酸血症は持続した。髄液乳酸は105.2mg/dl、髄液乳酸/ピルビン酸比は10.0(<20)、血液乳酸/ピルビン酸比は11.1(<20)、血液アラニンは984.3mmol/l(208-522)だった。ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症を疑い日齢30に遺伝子検査を提出し、また同日よりビタミンB1(Vit.B1)の内服を開始し翌日よりケトンフォーミュラと母乳(人工乳)栄養に変更したところ哺乳力が急速に改善し日齢35には乳酸値もほぼ正常化し日齢37に退院した。その後、PDHCのE1α サブユニット遺伝子にc.379C>T(p.R127W)が判明しPDHC欠損症と診断した。重症型の変異陽性の男児例であったが遺伝子診断の判明する前からVit.B1とケトンフォーミュラの併用療法により高乳酸血症と臨床症状は著明に改善した。この症例から、出生後よりL/P比が正常な高乳酸血症が持続した場合は、PDHC欠損症を念頭に置いた遺伝子診断とVit.B1とケトンフォーミュラ療法の早期導入の有用性が示唆された。
JJIMD2020-002-3
地域の基盤を活用したZellweger症候群の患児における在宅緩和ケア
▼著者名
大塚 ゆかり1)、松本 志郎4)、黒澤 茶々1)、谷田 理一郎2)、小田原 美和3)、城戸 淳4)、田仲 健一5)、坂本 理恵子1)、三渕 浩5)、中村 公俊4)
▼所属
1) 熊本大学病院小児科学講座
2) 医療法人谷田会 谷田病院
3) 医療法人愛生会 訪問看護ステーションきらり
4) 熊本大学生命科学研究部小児科学講座
5) 熊本大学病院新生児医学寄付講座
▼要旨
Zellweger症候群(ZS)は、Zellweger症候群スペクトラム(ZSS)の中で最も重症の疾患であり、常染色体劣性遺伝疾患である。重症型のZS患者は、特異顔貌、筋緊張低下を伴う重度の精神運動発達遅滞、肝機能障害および骨格欠損を示すことが多く、特に難治性痙攣はコントロールが難しく、在宅管理では困難が多い。我が国における小児緩和ケアは、まだ一般的に広がったとは言いにくいものの、次第にそのあり方が体系的に議論されるようになってきている。我々はZSの同胞例に対して緩和ケアを行った。1例目は、在宅での看取りではなく、病院での看取りを選択した。2例目の症例では、1例目の経験から、家族が地域のかかりつけ医の協力を得て、最期まで在宅で緩和ケアを継続し、看取りができた。家族に看取られての最期は、人の尊厳と家族の愛に包まれたものであり、時に笑顔が見られ、その後の家族の立ち直りにも大きく寄与した。家族の不安をできる限り取り除くことが重要であった。今回、我々の重症型のZellweger症候群に対する在宅緩和ケアの経験では、主として基幹病院を中心とした地域の協力基盤を活用することが重要であり、専門的な医療者、ソーシャルワーカー、訪問看護ステーション、在宅訪問診療医など地域サポートシステムの構築が重要なポイントであった。
JJIMD2021-001-3
成人期ファブリー病患者の日常生活の課題に関するインタビュー調査
▼著者名
古藤 雄大、山下 和香奈、波田野 希美、李 容子、國府 力、酒井 規夫
▼所属
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻
▼要旨
ファブリー病患者の疾患特異的QOL尺度を作成するための予備調査として、18歳以上のファブリー病患者を対象とした半構造化面接法によるインタビュー調査を実施した。22歳から73歳の12名のファブリー病患者に対して、ファブリー病が日常生活に与える影響についてたずねた。得られたデータは質的内容分析法を用いてコード化し、カテゴリーとテーマへの分類を行った。その結果、358個のコードが作成され、27個のカテゴリーと5つのテーマに分類された。テーマは【疾患症状に関連する問題】、【診断時期に関連する問題】、【治療に関連する問題】、【社会生活に関連する問題】および【家族関係に関連する問題】が抽出された。ファブリー病が希少疾患であるために、患者は症状による苦痛の他に、診断を受けることの難しさや、周囲からの理解を得ることの難しさについての悩みを抱えていた。また、身体機能の悪化や治療による制限が、日々の生活や仕事、家族関係に影響を与えており、生活全般にわたる情報提供や相談支援の重要性が示唆された。これらのインタビュー結果を基に、内容妥当性のある疾患特異的QOL尺度の作成を行うことが可能となる。
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